第12話「キャピタル・タワー占拠」
各陣営がザンクトポルトに向かって進行しつつ宇宙戦を繰り広げる、というのがザックリした今話のあらすじ。前話で各陣営が一斉にザンクトポルトに向けて出発したので、ここからチキチキレースバトルが数話展開されるのかと思いきや、意外にも今話であっさりとザンクトポルトに到着。
癇癪を起こしたラライヤを皆で大人しくさせるという、いつものメガファウナなシーンから今話は始まる。どうやらGセルフが大型バックパックに包まれているのが気に食わないらしい。「自由じゃない」という台詞から察するに、ラライヤにはGセルフが拘束されているように見えるのだろう。6話の「ずっと我慢…」のシーンも合わせて、ラライヤの過去をどこか感じさせられる。
それと同時に、プカプカ浮かび壁を蹴って宙を移動するキャラクターの姿や、画面の上下と戦艦内の空間の上下、MSの上下、キャラの上下がそれぞれ統一されていないカットを連続させる事で、ここがほとんど無重力状態である事が一発で感覚的に理解できるようになっている。そこに注意して前話を見直してみると、重力が弱まっている描写はあるが上下は統一されたカットが殆どなので、前話に比べて随分と高々度まで艦が上昇した事が分かる。
ラライヤご不満の今週のビックリドッキリメカであるアサルトパック。調整中のハッパさんがベルリに渡したアサルトパックのマニュアルがなかなか衝撃的。なんと∀ガンダムのマニュアルそっくりなのだ。
単なるファンサービスか、何らかの設定的繋がりを匂わしているのか、とか考えていたらTwitterで面白い指摘。
おそらくちょっとした遊び心程度、と受け止めるのが正しいのだろう。
ドラマ的にはここでハッパさんとベルリの会話がまた渋い。
ハッパ「こんな艦に配属されちまったってさ…」
ベルリ「えっ?何です?
ハッパ「貴様に守ってもらいたいんだよ!」
このシーンで初めてハッパ自身はメガファウナに乗っている事に多少なりとの不満はあるのだという事が視聴者に明かされる。明かされるのだが、その事自体は特に物語には絡む事無く、ベルリに対してもそんな態度はおくびにも出さずサラッと誤魔化してみせる。
物語とは関係の無い所で人間いくらだって不満は抱えるものだし、そんな事は特に珍しい事ではない。自分が不満を抱えている事が周囲に知られるのも面倒だし、隠しておくに越した事は無い。自分が整備士ともなればパイロットの不安にも繋がるのだからなおさらだ。相変わらず物語の都合以外の要素がこれでもかと詰まったキャラ描写が心地良い。
サラマンドラでは艦長とクリムらが補給艦ガビアルで遭難に見せかけザンクトポルトに侵入する計画を立てている。「ラジオドラマをやるように〜」「学芸会が得意だった兵が2、3名」という台詞がまた生活感があって堪らない。こうした些細な台詞が現実との接点となりリアリズムを演出すると同時に、世界観説明としても機能している訳だ。巧い。
場面はMSデッキへと移り、クリムがザンクトポルトの占領作戦を発表。クルーからは「聖地」に軍艦で乗り込む事への反発が続出。これによりキャピタル程では無いだろうが、アメリアにもスコード教がある程度根付いている事が分かる。信者かどうかはともかくとして、ある程度認知された宗教であれば、宗教施設への攻撃は前線兵士としては気持ちの良いものではないのは当然だろう。前述した宗教的意味合いに加えて、ザンクトポルトにはキャピタル・タワーの終着駅としての重要性もあり、今話の戦闘では「ザンクトポルトを攻撃出来ない」というのが戦術上の大きな足かせとなっている。
さてガランデンからマスクのMS部隊が発進してここから戦闘パートの様子。今話の戦闘では広い宇宙空間での各陣営の位置関係や、それに応じた作戦の立て方などが非常に凝った作りになっており、「ガンダム」的にとても面白い。
構図としてはクリムとミックらはMSにてザンクトポルトへと向かい、一方マスク部隊がアメリアの艦隊に攻撃を仕掛ける。戦闘距離にいないメガファウナからはGセルフとアルケインの2機だけがアメリア艦隊の応援に出撃という状況。以下にザックリ図解。
マスク部隊は白兵戦へと突入する前に先手をとるため長距離ミサイルでアメリア艦隊へと攻撃。それに対しベルリらも長距離攻撃用のアサルトパックで遠距離から迎撃して、マスク部隊のミサイル攻撃を阻止。ザンクトポルトへと向かっていたクリムらのMS部隊は艦隊が狙われているのに気付き慌てて帰還。
そしてそれぞれのMSがサラマンドラ艦隊周囲にまで接近し、ここからMS同士の白兵戦に移行。以上が大まかな今話の戦闘の流れだ。
(何かやたらに「どこで誰がどう戦ってるのかサッパリ分からなかった」という意見を目にしたので図解してみた。でもそんなに分かんないかなあ? ちゃんと台詞追ってれば全部説明されてると思うんだけど)
ドラマとして面白いポイントもいくつか列記。
戦闘に入る直前にベルリとアイーダが
アイーダ「あ、ありがと…」
ベルリ 「どうしたんです?」
アイーダ「マスク部隊はキャピタル・アーミィなのに、よく決心してくれたと思って」
ベルリ 「仕方がないじゃないですか!」
という会話をしているが、ベルリが同士撃ちにかつて落ち込んでいた事を知っているアイーダは、積極的に戦場に出るベルリに対して多少の後ろめたさを感じているようだ。しかし当のベルリ君はそこには余り屈託が無いようで、最後の台詞は声優の演技が妙に元気な事もあり、本人が口にする程は「仕方無い」的な感じはしない。
一見何て言う事の無い会話ではあるが、ここでも微妙に会話のすれ違いが発生しているように聞こえなくもない。こうしたシーンで感情の機微を想像するとなかなか楽しい。
サラマンドラの艦長がデッキのクルーに作戦を語りながら
「グシオン総監ではなく、我々が一番乗りになる!」
と嬉しそうに言っているのが面白い。元々が独立愚連隊的な扱いのメガファウナはアメリア艦隊と微妙に目的がズレたまま単独行動をしているが、同じアメリア艦隊の中でもこのように微妙にそれぞれの艦同士で縄張り意識や競争意識が発生している模様。
確かにそう簡単に組織全体が意思統一できる訳などないのだが、しかし同じ艦隊の中で「一番乗り」にはしゃぐ艦長というのも、どこか責任感が希薄でお調子者な印象を受ける。そしてさらにMS戦の真っ只中で数百年ぶりの本格的な宇宙戦争の当事者となった事実に浮かれて、突如航海日誌を書き始める。困った人だが、「当事者意識が微妙に希薄な責任者」というキャラ描写に何ともリアリティを感じないだろうか。こういう描写の積み重ねがドラマの血肉となる。
メカニック的には前話に続いて今話もマックナイフが強烈に個性を発揮している。まさかのポーズからの長距離ミサイル発射もさる事ながら、まるで演舞を舞うように回転しながらの全方位攻撃が非常に印象的。マックナイフの全身武器設定が見事に活かされた「必殺技」だ。マックナイフの動きの格好良さと中のマスクがクルクル回っているギャップのおかしさがまた面白い。
戦闘終了後はクリムらアメリア本国組が遭難作戦でザンクトポルトに一番乗り、一方戦艦で近づく事が出来ないメガファウナは1つ下のナットに停泊してそこからアルケインとGセルフだけでザンクトポルトに向かう。
ここでGセルフが拘束されていたのはどういう理由があったのだろう? アメリア本国組としてはキャピタル・ガードがメガファウナに協力している事は分かっていても、微妙に信用はしていないのかも知れない。特に聖地を占領した側からしてみれば、スコード教の信者で構成されたガードの戦力は近づかせたくない、と考えそうだ。それを警戒した措置という事だろうか。
また、ここで姫さまが意外(?)にアメリア軍では人気が高い事が判明。メガファウナにとっては面倒臭いじゃじゃ馬娘でも、世間的にはアイドルという事か。
聖地ザンクトポルトだが、これがまた意外にも随分ほのぼのした場所で、どうやら観光名所的な役割も果たしているらしい。
大聖堂ではまたもや高官陣が一同に会して、今度は腹の探り合いでなく正面からお互いの主義主張をぶつけ合う。ウィルミットは「艦隊を止めてみせる」と言って帰国したはずのグシオンがのこのこ戦艦引き連れて現れた事に随分とおかんむりで、グシオン本人もそこに後ろめたさがあるのか、このメンツの中では若干弱腰だ。
そこにベルリとアイーダが乱入するが、その直後に聖堂で警報が鳴り響く。補給艦ガビアルが撃墜されるという衝撃の展開。撃ったのは月からの艦隊らしい。自体は急展開を見せるが「月をバックに戦艦からMSらしき光源が次々と射出」のカットで今話は終了。遂に「宇宙からの脅威」とやらがお目見え、という引きで次回へと続く。
という訳で、ザンクトポルトに辿り着いたと思ったら、今度は早くも謎めいていた「宇宙からの脅威」が実際に登場。10話まではほとんど1話完結でそこまで大きく話が進まなかったGレコだが、宇宙に出てからは一気に駆け足展開だ。次回予告は「見なければ何も分からない!」。見た所でどれだけ分かるのかは分からないが、分からなくても死ぬ程面白いので次回も見る!のだ。