第9話「メガファウナ南へ」
前回でグシオンパパンとウィルミットママンを乗せたメガファウナが、ベルリからの提案で一路キャピタル・テリトリィへと向かう、というのが今話のあらすじ。これまで多少の変化はありつつも、基本的に主人公らは定位置にいながらストーリーを動かし、そこに敵のMS部隊が襲撃→撃退、という防衛戦がメインだったが、今回は主人公らが目的地に向かって出発し、そこに辿り着くまでが1話の中で描かれる。動くキャラクター数もいつもより若干多めで、ロードムービー+群像劇という富野アニメの基本構造が凝縮されたような1話だ。
今回はクリムとミック・ジャックがアーマーザガンでメガファウナを単独離脱するシーンからスタート。後のシーンで明かされるように、2人はアメリア本国へ帰還の運びらしい。レギュラーキャラの退場が一切台詞無しでサラッと流される所が実にこのアニメらしい。
メガファウナのブリッジでは相変わらずバタバタはしゃぐラライヤと、これまた相変わらず面倒見ようと奮闘するノレド。前回と違うのはそこにウィルミットの叱咤が入る点。
「行儀よくなさい。ここはよそさまの軍艦ですよ」
なんとも呑気な趣きのある台詞だが、仕事人間なウィルミットが母としてここぞとばかりに保護者をやろうとしている意識が少し垣間見える。
メガファウナの進路はキャピタル・テリトリィへととられる。前話ラストで語られた「宇宙からの脅威」とやらに対抗する為には、アメリアとキャピタルも協力すべきだ、という理屈だ。これまで本国アメリアからの作戦指示待ちだったメガファウナがようやく能動的な行動を始める。それに伴い今話はこれまでのいつにもましてロードムービーなお話となる。とは言えメガファウナはあくまで海賊船なので、低空飛行で陸地に隠れながらひっそり移動の様子。
メガファウナのブリッジでお茶する2人。このシーンの会話が短いながらになかなか渋い。
ウィルミット「中尉の帰国は大統領からの圧力ですか?」
グシオン 「いや、作戦上の都合です」
このアニメでは主人公ベルリとヒロインのアイーダ、そしてクリム・ニックの3人が、揃って国の高官を親に持つエリートの子供達だ。このシーンはそれら3組の親子のうちの親2人が、ここにはいないもう1人の親について話しているという構図になる。
ウィルミットの台詞は同じMSパイロットの子供を持つ親としての共感にもとれるが、皮肉のようにも聞こえなくない。言葉の裏にあるのは「親としては手元に呼び戻したくなるのは分かる」なのか、「大統領が私情で軍の人事に口出しするのか」か。
グシオンの方はそれに対して「大統領は別に私情を挟んでいる訳では無い」というフォローが入っている訳だが、勿論実際のところは分かったものでは無い。グシオン自身も、ウィルミットがたまたまメガファウナにいるから「高官同士の会談」を通して存在意義を持てているが、そうでなければそもそも何故補給部隊と一緒に現れたのか。当然それはアイーダの様子を見る為に決まっているので、彼も自分の立場を利用して私情でメガファウナに居座っているようなものなのである。
(まあしかしそれを言うなら誰が一番私情で好き勝手動いたかと言えばどう考えてもウィルミットに違いない訳だが)
短く地味な会話だが、似たような立場の親同士としての意識のし合いになかなか深読みの余地があって、興味深いシーンではないだろうか。冒頭のクリム・ニックとミック・ジャックがメガファウナを離れた理由の説明をしつつ、こういった会話劇をサラっと描いているのである。
イザネル大陸とやらに入ったメガファウナは一旦停泊。ウィルミットらがベルリら少年少女組を連れて長距離電話を貸してくれそうな所を探しに出かける。キャピタル・ガードと連絡をとる為なのでウィルミットが出かけるのは当たり前なのだが、ここでも保護者役としてベルリらの引率をしているのが面白い。
そしてここでノレドから結構な爆弾発言「ベルリって貰いっ子らしいよ」という内緒話が暴露。以前から放送前の富野インタビューを元にしてアイーダとベルリの間に血縁関係(姉弟)が噂されていたが、その伏線が張られたと見て良いだろう。こうした物語上かなり重要と思われるシーンが単なる雑談シーンの中にサラッと投げ込まれて前後のシーンとシームレスに繋がる。これまた富野的な作劇。
で、一方で彼らが出かけた目的である電話拝借のシーンが、今度は逆に物語的には何ら重要な情報は含まれていないにも関わらず、生活感に溢れた描写で非常に魅力的だ。電話ついでに鶏と魚を買い取るというのは「物資」の概念がちゃんと描かれていて戦艦ロードムービーとして面白いし、電話だけで若干迷惑そうにしていた民家の親父さんが「言い値で買い取る」という言葉に途端に商売っ気を出す辺りも人間味が感じられる。
ここから多少時間は飛んで、イザベル大陸を進むメガファウナ。低空低速で飛行している為に風にあおられ大揺れらしい。船酔いするウィルミットママ。
今話では時間の飛ばし方がなかなかトリッキーで、本来普通のテレビアニメの作劇なら2、3話のボトルエピソードを使って構成するような所を一話でサクッと描いている。ひょっとしたら先の買い出しシーンからは数日空いていたりすらするのかも知れない。
次のシーンでは宇宙服の衣装合わせをして貰うノレドとラライヤ。未だ名前の出て来ないメガファウナのお針子さん(公式ホームページにての名前である事は確認できる)だが、彼女も地味に良いキャラクターをしている。
そこにアイーダ姫さまが現れるのだが、ここでの会話シーンがまたなかなか面白い。
アイーダ「ここは南の大陸のイザネルなんですから、敵地です」
ノレド 「敵だ敵地だって、ここはアタシ達の故郷なんだ!」
故郷への帰属意識を強く持つノレドが印象的だ。前話でノレドとルインのクンタラとしての意識差に言及したが、ここでも2人の間でキャピタルに対する意識の差が見える。ルインが「我々クンタラがキャピタルを支配する!」と息巻くのは、自分達がキャピタルに住む人々のマジョリティに差別されてきた事に対する怨嗟から来ている訳だ。言うなればルインにとってキャピタルはある種の「復讐対象」なのである。一方で自分の出自に対する劣等感の薄いノレドにとっては、キャピタルはあくまで自分の返るべき「お家」のある故郷であり、その故郷を悪く言われる事にはストレートな不快感を持つ訳だ。
(ここで坂井哲也氏の非常に素晴らしい富野アニメ評、「「故郷がない」富野由悠季は、しかし故郷探しの旅を描き続けるのだった。」を紹介。必読 http://tominotoka.blog.so-net.ne.jp/2013-04-04)
で、このノレドの噛み付きに対して素直に謝るアイーダ。サラッと謝られて逆にばつが悪くなったのか、こちらもすぐに頭を下げ返すノレド。何だか妙に「謝罪」のシーンが今話では重ねて描かれており印象的だ。「子供向けアニメ」らしく「挨拶はしっかりしましょう」という教育的意図なのだろうか?
次のシーンではテーブル大地を進むメガファウナが描かれて、MSで待機しているアイーダとベルリが壮大な自然のアートに感嘆する。ここでも会話の中でまたもや「謝罪」。で、そうこうしているとそこに突如現れるキャピタル・アーミィ達。マスク部隊の追撃だ。ここから今話の戦闘シーンに入る。
戦闘中に自動操縦でアッサリ撃墜されるモンテーロ。個人的には天才クリム君にはZガンダム後半の百式ばりに型落ち感のある中でモンテーロをずっと使い続けて頂きたかった。残念。
モンテーロが撃墜された一方で、マスクのエルフ・ブルックも退場するらしく乗り捨て。ここでマスク渾身の生身の空中サーカス。落ちるエルフ・ブルックのコクピットから飛び降りて、エフラグへと飛び移る。
よく死ななかったなと感心する所だが、ここでベルリの
「人を見ちゃったら撃てないでしょ!」
の台詞が印象に残る。ガンダムファンとしてはファーストにおけるアムロの「相手がMSなら、人間じゃないんだ」という台詞を思い出す所だが、これは逆に言えば人の姿さえ見えなければ撃てる、という意味になる。気がつけばベルリもサラッと人殺しをしている訳で、やはりリアルは地獄だ。
マスク撃退後に今度はレックスノーがメガファウナの前に現れる。が、これはウィルミットが応援を要請したキャピタル・ガードのMS。パイロットは久々のケルベス教官。3話以来の再登場を果たす。
ウィルミットからの要請があったとは言え、平気な顔で海賊船を自国内に誘導するケルベスの姿に対して、グシオンの方は違和感を覚えたようだ。
「キャピタル・ガードの職員というのは、ああいうものですか?」
そんなグシオンの声に対してウィルミットが答えたのが
「スコード教の信者、と言う方が正しいですね」
という台詞だ。
前話ではウィルミットがグシオンの言う「月の異変」「宇宙からの脅威」に耳を塞ぎ、とにかく家に帰ろうとベルリに訴えていたが、この時のウィルミットはスコード教の教義にしばられて現実を正しく認識できずにいるという状態だった。「スコード教の信者」という立場が思考停止を産んでいる訳だ。
その一方で今話ではキャピタル・ガードが自国の国防という観点でなく、宗教に行動理念を根ざしている事で、無用な争いを避ける事が出来た訳だ。こうしてGレコではスコード教という「宗教」の存在が正の側面、負の側面ふくめて極めてフラットに描かれる。
テリトリィ内の潜入に成功したメガファウナ。ベルリら主人公御一行は法王様に面会する為、キャピタル・タワーの地上施設であるピクローバーへと向かう。その際に地上を経由するのだが、街は何故だかお祭り騒ぎ。何かの記念日かなんかかと思えばウィルミット曰く
「キャピタル・ガードの勤務は辛いのです。週に一度の息抜きは必要です」
だそうだ。
00年頃を境にして富野アニメでは「祭り」が重要な要素として配置され、「人は祭り無しに生きていけない」というテーマが繰り返し描かれるようになった(具体的に明言すれば∀ガンダムからと言って良い)。リアルはどうしたって地獄であり、人はそこで生きていくしかできないので、定期的に労働の対価として祭りを催し、ハレの場で日常のケを発散させなくてはならない。
今話の「週に一度の息抜き」もキャピタルの人々にとって同様の役割を果たしていると言えるが、∀ガンダムやキングゲイナーで描かれた「祭り」がある程度好意的に描かれていたのに対し、ここでは街のお祭り騒ぎを見たグシオンが
「豊かさの成れの果てに見えますが」
と辛辣な感想を漏らしてもいる。アメリアはキャピタル、ひいてはスコード教のフォトンバッテリー独占に不満を抱いて戦争を仕掛けている訳だが、フォトンバッテリーの独占とはエネルギー資源の独占であり、そしてそれは当然そのまま富の独占を意味する。そうした意味で言えば「アメリア軍総監がキャピタルのお祭り騒ぎに眉をひそめる」というこのシーンは、うっすらとアメリアとキャピタルの経済格差を暗示していると言える。
また、その直後の「週末だから監視体制が機能していなかった」というシーンも、キャピタル・テリトリィにおける豊かさと平和ボケからくる社会システムの腐敗を表しているようにとれる。
先程の「宗教」に対する視点と同様、ここでも以前は好意的に描かれていた「祭り」というファクターに対して、正負両面がフラットに描かれているという訳だ。
ところで、ここでクンパ大佐が
「つくづく地球人というのは、絶滅していい動物の中に入るな」
となかなか含みのある台詞を吐いている。この台詞からクンパが月からのスパイであると推測する事も出来るが、逆に地球人だからこその同族嫌悪、そして異邦人への憧憬から来る台詞であるともとれる。ここら辺は今後の展開待ちか。
大聖堂へと辿り着き法王との面会にこぎつけたウィルミットとグシオン他だが、ここでは法王は教義を盾にのらりくらりと質問を躱すだけ。クンパ大佐も入ってきて「大人同士の会話」のキナk臭さが極まったと思ったら、ここでさらにケルベスが乱入。緊急事態との事でベルリとアイーダが連れて行かれ、今話は終了。はてさて。