第16話「ベルリの戦争」
トワサンガに着いて早々レジスタンス組織と合流したメガファウナの面々が、ベルリとアイーダがトワサンガの旧王家にしてレジスタンス組織の母体であるレイハントン家の遺児である事を知り、その事実にベルリがアップアップになっちゃう、というお話。ようやく明かされた姉弟設定だが演出上そこまで「衝撃展開!」と盛り上げないのは相変わらずのGレコ節。しかしながらベルリ君のイライラが見えたりする辺りは物語のターニングポイントになりそうな気配もあるが、さて?
【宇宙都市の樹木】
冒頭、レイハントン家の屋敷へと案内される一同。ここでトワサンガのコロニー内に立派なオリーブの木が植えられている事に地球組が驚く。
「500年ものがゴロゴロあるなあ」
宇宙に浮かぶ人工都市に初上陸した人々が、そこにある樹木の樹齢に驚く、という描写が世界観の奥行きを感じられて面白い。それと同時に、反対にキャピタル・タワーのナットの中にはここまでの自然は形成されていないのだろうと推測される。あくまでクラウンで地球から運ばれる物資頼りの生活、という訳か?
次に一行は麻畑を通る。この麻とは大麻、いわゆる麻薬(マリファナ)の原料だ。とは言え彼らが麻薬製造をしているという訳ではない。大麻=麻薬というのは限定的なものの見方で、おそらくここでは植物繊維の原料としての麻栽培と見なして良いだろう。と言うのも、ガンダムエースにて連載していた、富野監督と各分野の技術者・学者・有識者が対談する「教えてください、富野です」のコーナーにて、以前に大麻がテーマとして取り上げられた事があったのだ。そこではバイオマス研究に携わる赤星栄志氏をゲストに、古来の日本人の大麻との関係や、大麻の生物資源としての将来性などについて語らえており、こうした知見がGレコにおいても世界観構築のヒントとなっているのだという事が分かる。
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これまでもGレコでは丁寧な動物描写が世界観構築に一役買っていたが、今話では植物達もまた見逃せない重要な要素となっている。
【戦争を面白がる世代】
レイハントン家へと招かれた一行はここでベルリとアイーダの出生の秘密を知る、の前に、ちょっと気になった台詞を抜粋。
ミラジ「トワサンガの問題もありますが、地球では戦争を面白がってしまう世代が生まれてしまったことも原因になっています」
ベルリ「僕のような世代のことを言っているんですか?」
このブログの感想でも、Gレコでいろいろなキャラクター達が戦争を楽しんでしまっている薄ら寒さには何度か言及を重ねてきた。それはマスクやベッカーらといった「敵キャラ」達だけでなく、共に戦う仲間である所のクリムやミック・ジャックにも当てはまり、はてはマスコット的な存在であるセントフラワー学園のチアガール達ですらMSの出撃式をお祭り騒ぎとして楽しんでしまっている。主人公のベルリですらそれは例外ではない。
そういった「戦争の恐さ」がこのアニメの中では、描写としてはストレートに描かれているにも関わらず、それを「恐い」と視聴者に悟らせないような形で提示されて来た。だからこそGレコに対する批判として「戦争をしてるはずなのに、皆のんびりしすぎ」という意見が散見されたが、そもそもGレコは「慣れない戦争状態を楽しんでしまう人達」を描こうとしているのだ。そうした作り手の意図が遂にこの台詞で明示された訳だ。
【姉と弟】
という訳で遂に明かされたアイーダとベルリの姉弟設定。そしてそれと同時に2人がトワサンガの失われた王族レイハントン家の生き残りである事が明かされる。余りにサラッとした暴露に視聴者が困惑している間に話はあれよあれよと進んで行く。
ここで(毎度のように)異様な適応力を見せるのがベルリ君で、視聴者が急展開についていこうと必死なのを尻目にサラリとアイーダを「姉さん」と呼ぶ。「恋を知ったんだ!」とまで言っていた割には、余りにアッサリと現実を受け入れたように見えて、我々の困惑はさらに加速する。がしかし、このベルリの不自然な態度が実は今話全体を通した仕掛けである事が後半になって分かる訳だが…。
さてその一方で、ベルリとは逆にアイーダさんの方は「衝撃の事実」に大きく感情を上下させる。赤子の頃に2人が過ごした子供部屋へと通された際にも、ベルリが無邪気に
「ひょっとしてあれ、僕が使っていたんですか?」
とベビーベッドを指差す一方で、アイーダは記憶の中の思い出と照らし合わせて涙を流す。
この2人のコントラストがさらにハッキリするのが次の姫さま演説(?)シーン。2人の地球亡命の手順や、Gセルフの仕掛け=レイハントン・コードについて種明かしするミラジとロルッカに向かって、アイーダは強い言葉で迫る。
「私達はあなた方のこの仕掛けに乗せられて、とてもひどい現実と対決してきました」
要するにアイーダは怒っているのだ。何故?
「けれどG-セルフを操れたおかげで、私は恋人を殺され、ベルリは、弟は人殺しの汚名をかぶることになったのです!」
アイーダは、自分達が目の当たりにした運命の悪戯が、目の前の老人達に仕組まれていた事が腹立たしいのだ。だから2人がおそらく想像していなかったであろう自分達の悲劇を殊更にアピールする。「私達がMSに乗って戦う事になれば、どういう事になるのか貴方達は想像しなかったのか?」と。
(しかしアイーダは別にGセルフが無くても宇宙海賊をやっていたので、ここで大上段から「あなた方の仕掛けに乗せられて!」と言えるような立場でも無いだろとは思うが…)
ベルリ達が「戦争を面白がる世代」であるなら、ここでの大人2人は「戦争を利用する世代」であると言える。アイーダはさらに重ねる。
「あなた方に使命というもの、理想とする目的があるにしても、そのようなものは、私は私自身で見つけて、成し遂げます! 時代は、年寄りが作るものではないのです!」
見事に決め台詞が決まったアイーダ姉さんだが、ベルリ君の方は「姉さん…」と一言言葉をかけるだけ。ここでベルリが何を思ってアイーダの言葉を聞いていたのかは明示されない。
どうもここでアイーダの方は「弟の分まで私が言ってやった」くらいには思っていそうではある。しかしベルリの内心のショックは別の所で発生している、というのが後半でようやく分かるのが今話の「仕掛け」なのだ…。
ところで、この一連のシーンでちょっと個人的に面白いのが、レイハントン邸宅の外壁に絡まった蔦を剥がす人々のカット。何でも無いシーンに見えるが、妙に楽しそうなのが印象的だ。「長年主のいなかった屋敷にようやく王子と姫君が帰って来た!」とテンションが上がっているのであろう事が予想されるが、仕え人根性の染み付いた人々の姿に妙なリアリティが感じられて面白い。
【男女三景】
今回もまた様々な男女模様が楽しいGレコ。ここからマスク・マニィ・バララ、クリム・ミック、マッシュナー・ロックパイの3組の男女にそれぞれ焦点が当てられる。
前話で出番の無かったガランデンでは、相変わらず雑用係なマニィにまたぞろキナ臭い会話のマスクとバララ。そこでマニィはマスクの「月側に一度投降しておいて、仲間になったと見せかけて…」という作戦を聞かされる訳だが、
「さすが、先輩!」
という独白がこれまた相変わらずマニィの危うさを感じさせる。他に頼る者のいない状況で、マスクを「頼りになる先輩」と思い込もうとしているように見えるのは私だけではあるまい。
一方マスクとマニィの青臭い関係を眺めるバララはそれを嘲笑する。こっちもこっちでマニィとは別の意味で危うさを感じる。2人の女の間で上手く立ち回ってるつもり(かどうかは知らんが)のマスクだが、不幸の爆薬は着々と積まれて行っている。はてさて。
危うい三角関係のガランデン組とは対照的に、相変わらず楽しくはしゃいでるのがクリムとミックのサラマンドラ組。コイツらもコイツらで状況を上手く利用した気になって戦争にはしゃいでいる、という意味ではかなり危ういはずなのだが、不幸な未来が想像しづらいのはクリムのコメディ力のおかげか。
お次は「美人のお姉さんと青い少年」な関係のマッシュナーとロックパイ君。地球人に対する好待遇に納得のいかない様子のロックパイだが、そんな彼を諌めるマッシュナーさんのやり口がなんと「キス」という衝撃。一応言葉での説明も行ってはいるのだが、「子犬がキャンキャン煩い時はこうやって黙らせておけば良い」くらいのやっつけ感がある。他の2組に比べるとまだまだ描写の少ない本カップルだが、関係性は随分と見えて来た気がする。
3者3様で全員自分達の思うように事態が進行していると高を括っているのが楽しい3組の様子だが、これぞ正に「戦争を楽しむ世代」の姿な訳で、さてコイツらにいずれ手痛いしっぺ返しが来るのかどうか。まだまだ先が読めない所だ。
【イライラ・ベルリ】
今話後半戦のハイライトとなるのが、唐突に噴出するベルリの苛立ちの描写だ。Gセルフを独断で動かしたベルリは、宇宙空間からシラノ5の外壁を眺めつつ、急速にイライラを加速させてゆく。
一度は「ふーん」と流してしまった事に対して、時間をおいてよくよく考えてみると段々怒りが湧いて来る、という経験は誰しも一度や二度あるのではないかと思う。これまでもベルリは周囲の状況に対して頭で考えずとも反射的に対応してしまえる強かさがあった(それが悲劇的な形で自分に帰って来てしまったのが6話の対デレンセン戦だった訳だ)。今話でも、衝撃的な自分の出生の秘密が明かされながら、周囲に人がいる時には話の流れにサラッと「対応」してしまえていた。しかしそれがいざコクピットの中で1人になってみると、その理不尽さに苛立ちが募り始める。
さてではベルリ君が一体何に苛立っているのかと言えば、意外にもトワサンガ生まれである事そのものに不満があるらしい。
「こんな物の上に林があったり、窪んだ土地の農家や、僕の生まれた家や池もあるってこと?
こ、こんな景色の所が故郷だなんて…!」
普段は飄々としているベルリが、実は自分の生まれ故郷に強い愛着を持ち、大地で生まれて大地で育った(と思い込んでいた)事に相応の誇りを持っていた訳だ。おそらく自分の地球への執着心に、ベルリ自身も初めて気付いたに違いない。
コロニーを故郷とする事に嫌悪感を抱くベルリだが、トワサンガの人間は正真正銘この人工大地で生まれて死んで行く訳で、ベルリの嫌悪感はそのまま月の人間への差別意識に下手をすれば繋がりかねない。ノリと好奇心で月のコロニーまで旅して来たはずのベルリだが、旅先としては楽しく見て回れた人工大地も、自分の故郷となると受け入れられない、という訳だ。これもまた、なかなかドキリとさせられるリアルな人間心理ではないだろうか。
さてベルリの不用意な出撃から今話の戦闘が始まるが、これは小競り合い程度でサラッと終わる。「ガンダム」発言があったりすると勢い身をのり出しそうになるのがオールドファンの性ではあるが、まあ単なるファンサービス。
メガファウナに戻って来たベルリだが、イライラは収まらない。が、そんなベルリの苛立ちをアイーダは、と言うより周囲の人間は皆理解する事ができない。なにせ周囲からしてみたらベルリは一度「衝撃の事実」を受け入れ済みなのだ。6話に続き、ベルリの反射的な適応力が、自身にとってネガティブに作用してしまったという形だ。
ここでAパートのアイーダの態度を思い返すと面白い。アイーダは自分ではおそらくベルリの分まで怒りの表明を肩代わり出来たつもりでいるのだが、彼女の言い分は「小細工を弄して人を厄介なMSのパイロットに仕立て上げやがって」というロルッカらへの反発だ。しかしベルリの苛立ちは別の所から来ているので、それをアイーダと共有することができない。
自身の出自の問題もさることながら、さらに問題なのがアイーダと自分とが実の姉弟であるという事実だ。
「アイーダさんが、姉さんだなんて言われたら! いい加減おかしくなるだろう!」
イロイロと大義名分を掲げつつも、何やかんやでアイーダの尻を追いかけてここまで来た、という節のあるベルリからすると、この事実は自身の行動原理を根元から揺るがしかねない。己のアイデンティティと行動原理、この2つに同時に大きなショックを受けたベルリは、周囲の目から離れた所でさらに苛立ちを爆発させる。
「何が、レイハントンだ!」
普段飄々として何を考えているかイマイチ掴みづらいベルリが、主人公らしい感情表現を見せた所で今話は終了。次回へと続く。このまま物語は急速に「ベルリの物語」へと移行していくのか、それとも…。
(っても6話の時も似たような事は思ったからなー。はてさて)
という訳で、意外にもベルリの内面問題に切り込んだ今回だが、次回は次回で訳の分からん新MSが登場したり、「宇宙のゴミ掃除」という文言が出たりと、またもやドタバタしそうな気配。話を分かりたければ見るしかないらしいが、見た所で本当に分かるのかどうかはいつも通り怪しい所。何はともあれ次回も見る!のだ。