ガンダム Gのレコンギスタ 第十四話感想 女いろいろ万華鏡

第14話「宇宙、モビルスーツ戦」

 今回は前回ラストの姫さまの宣言通り、月のトワサンガへと向けてザンクトポルトから出発するお話。トワサンガへ向かうのはメガファウナだけでなく、クリムのサラマンドラにマスクのガランデンと、お馴染みに連中も御一緒。一方でウィルミットやグシオンなど、ここでお別れと思しき面々も多い。新たな旅立ちという訳で「第二部の始まり」といった趣きだ。



 本編は驚愕の「既に回復したラライヤさん」から今話はスタート。物語上重要なシーンを「話と話の間に起こった事」として描く手法がまた何とも富野アニメならではの圧縮劇っぷり。
 ここでノレド、ラライヤ、アイーダの新衣装3連チャン(と思いきやその後の会談シーンではアイーダはいつの間にやら元の普段の服に。これは正直ミスな気がする…)。



 1人ずつベルリにファッションを自慢するように見せつけるのだが、一人目のノレドを見事にスルーしてラライヤの方に注目するベルリが地味にヒドイ。地味にヒドイのだが、意外にもノレドはそんなベルリの態度に特に気にしたふうではない。むしろラライヤを自慢するようにすら振る舞う。
 ノレドが2話からこっちずっとラライヤの母親役をやっていたのは言うまでもない。作劇上画面に映っていたシーンは元より、カメラの映らない場所でもその行動の殆どはラライヤとセットであった事は想像に難くない。ノレドにとってはラライヤはもう「私の自慢の娘」に近い認識であるのかも知れない。母親的な真理で娘(ラライヤ)と自分とをある程度同一視しているが故に、ベルリからラライヤへの評価も自分へのものと一緒くたにしている、と考えると面白い。
 で、一方アイーダ姫様はと言うと、ストレートなベルリ君からの称賛に「ついでに褒めたでしょ?」と軽口で応じる。「思い人の仇」という最悪の関係性からスタートしたベルリとアイーダだが、気がつけば随分と仲良くなっている。そうした関係性の変化が明示的なイベントによってでなく、ゆっくりとした時間変化の中でいつのまにか、というふうに描かれているのが流石の人間ドラマっぷり。

 男1に女3のハーレム感ある主人公勢がほのぼの仲良くやっている一方で、不穏さが一杯なのがマスク勢。月の連中をどうにかしたいクンパ大佐に、ドレッド将軍の暗殺を進言するマスク。それに対するクンパの

「聖域ではだめだ。世界中の信者に嫌われる。宇宙戦艦とともに沈めることに意味があるのだ」

の台詞は政治的なキナ臭さを感じさせると共にこの世界観での価値観の紹介ともなっていて非常に面白いが、一方でドラマ的に注目したいのが、マニィがマスクに向ける不安な表情。平気な顔で人殺しを進言するマスクにマニィは動揺を隠せない様子。どうやらマニィにとっての「理想のルイン」と現実のマスクとの間に少しずつ乖離が発生しつつあるらしい。

 ウィルミット、グシオンの地球側と月側の首脳陣とでの会談シーン。会談内容そのものは前回同様に腹の探り合いと主導権の握り合いをしつつも、特に踏み込んだ内容は無し。作劇的にはラライヤが月の高官らの名前を挙げる事で、彼女が何らか軍関係で地球へと降りた事が分かる。相変わらず視聴者への直接的な説明セリフを避けるアニメである。
 ここでちょっと面白いのがラライヤの汗を拭いたりと何だかんだで面倒を見続けるノレド。ラライヤ自身はもう既に回復したので庇護が必要ではないが、ノレドの方は未だ母親役をやり続けている訳だ。

 首脳陣の会談から抜け出してメガファウナへと向かうベルリ達。元気になったラライヤについてコメントするベルリに対して、耳元に顔を寄せて

「ラライヤを好きなんでしょ?」

と妙に楽しそうに囁くアイーダ姫。距離の近くなったベルリとアイーダだが、アイーダの方は色恋的な感情は皆無な様子。そんなアイーダに対して、ラライヤはあくまで人間的に好感が持てるだけ、という事を遠回しに述べるベルリ。ううむ、青春…なのか?

 ここで相変わらず妙にほのぼのしたベルリ一行の元にマニィがかけよる。ベルリらに自分がガランデンでこのまま軍人を続けて、マスクの力になりたいという旨を告げるマニィ。上で書いたようにマニィはルインの言動に対してそこはかとない不安を抱くようになってはいるものの、しかしその不安に対しては自分の方がマスクの側に合わせなくてはならない、と思い込んでいるようでもある。わざわざ部隊行動から抜け出してノレドらに会いに来たのも、単純に学友らに自分の身の振り方を報告しておこうという以上に、自分の中にある迷いや不安を振り切る為に敢えて宣言しているような節がある。どうも「尽くす女」をやりたがっているマニィであるが、Gレコの中では特に今後の危うさを感じさせるキャラクターになってしまっている。

 そんなマニィの後ろ姿を心配そうに見つめるノレドだが、当の本人もベルリに地球に帰るよう薦められる。しかしノレドの方は

「月まで行かれるならロマンチックじゃない?」

との返答。あくまで単に「ついて行きたいから、ついて行くだけ」という訳だ。ノレドのあっけらかんとした態度の気持ちの良さは、マニィの方が自己欺瞞が内包された義務感で月へと向かおうしているのと非常に対照的で、このノレドの元気な姿が、より一層マニィの「危うさ」を感じさせる。

 さらにマニィの「危うい」シーンは続く。ガランデンへと戻ったマニィは甲板上でマスクと密話。マスクはマニィに

「マニィ、ちょっと危険な作戦を実行することになる。なるべく艦内深くに隠れていろ」

と告げる。

 この台詞にはマスクがマニィに求めているのが「戦場から帰って来た時に待っててくれる人」である事が分かる。一見するとマスクからマニィへの気遣いの台詞ではあるのだが、この言葉にマニィが素直に喜べないのは、戦場ではマスクの隣にはバララという女がいるからである。
 要するにマスクは「仕事のパートナー」としてバララ、「家で待っててくれる人」としてマニィを求めていて、それで上手くいくと勝手に思い込んでいる訳だ。しかしマニィの方は「仕事のパートナー」をやれているバララを見て「居場所を取られる!」と嫉妬するのだ。だからMSの操縦を覚えなきゃと焦る。マニィは口では「マスク大尉を助けたい」と献身的な事を言っているが、実際には男に対する独占欲と嫉妬心が行動原理だ。そして厄介な事に、マニィは自分自身ですらおそらくその事に気付いていない。だからマスクへの不安を「クンタラの名誉」がどうのこうのと、大義名分への不安へと転嫁する。富野アニメにおける典型的な「不幸になる女」としての材料を着々と積み上げて行くマニィの明日はどっちだ。

 一方当の嫉妬の相手であるバララはと言うと、マスクからのMS準備の命令に対して

「面倒をかける大尉さん」

と少々冷たい笑みを浮かべながらのドライな独り言。こちらはこちらで対等な立場でマスクを利用しているという雰囲気が色濃く、腹の底ではお互い信用しきってなさそう。だがその余裕のある態度が逆にマスクとの関係性という意味では、マニィを一歩も二歩もリードしていそうな節もある。何とも危うい三角関係だ。



 こうした危うさが何とも魅力的なマスク勢だが、それとは好対照なのが、Gレコの中では抜群に安定したカップルである天才クリムとミック・ジャック
 ミック・ジャックもバララと同様にクリムの事を心底信頼しているという訳ではなく、内心自分の方が主導権を握っていると思っていそうだが、バララがマスクに向けるどこか冷たい視線と比較すると、ミックの場合は自分の手のひらの上にいるクリムを可愛く思っていそうだ。

 今話でもナチュラルにクリムに体を寄せるミック・ジャック。会話内容はマスク下げ発言だが、言外には「だからあんたの方が良い男だよ」というメッセージが読める。ある種「女が男を煽てる」「男が調子に乗って頑張る」の関係性が一番上手くいっている2人と言える。(が、そうして上手くいってる2人がやってるのが「戦争を楽しむ」なのだからやはりリアルは地獄である)

 さてトワサンガへと向けて出発するガランデンサラマンドラメガファウナの3艦。月艦隊とザンクトポルト周辺での最後の小競り合いを繰り広げる。前回前々回に引き続き「ザンクトポルトを傷つけられない」という制約が各陣営において戦闘の重要ファクターとして機能する。
 マスク部隊はMSで陽動戦闘を行っておきながら、ガランデンがザンクトポルトを後ろ盾にして月艦隊に艦砲射撃を行う。相変わらずの立体的な戦場描写が面白い。マスクのマックナイフが月艦隊旗艦のギニアビザに取り付いたかと思えば、謎のカプセルを射出して離脱。

 ザンクトポルトからの離脱はしんがりになってしまったメガファウナ。ベルリとアイーダがMSで護衛につくが、ここでのブリッジでの通信会話が面白い。

ベルリ 「月まで行くんだから、ここでかすり傷1つ受けるわけにはいきませんよ」
アイーダ「何他人事いってるんです。ハッパ中尉が…」
ベルリ 「宇宙用のバックパックをセットしてくれました」
アイーダ「はい、良くできました」
ベルリ 「任せてください、とは言えませんけど…」
アイーダ「言いなさい! こういう時は嘘でも人を安心させるものです」

ここまで劇中でのMS戦に対する貢献度は圧倒的にベルリ>>>アイーダのはずだが、ベルリに対してはどうも「姉貴分」をやりたがる模様。そしてこのシーンでは、アイーダがベルリに対して姉貴分をやろうとする事が、そのままアイーダが「姫様」をやる事に繋がっている。そんな2人のやり取りを見ながら、常々姫様に「姫様」をやらせたがっているドニエル艦長は嬉しそうに笑う。


 MS戦は全体的に月の部隊が練度は低めらしい。クリムやベルリらにアッサリと落とされて行く。ここで「1つ! 2つ!」と数えながら月のMSを次々撃破していくベルリ。当然我々はアムロの勇姿を思い出す訳だが。

 そんな最中で投降ポーズを取る一機のMS。慌てて動きを止めるベルリのGセルフ。ここで投降したMSのパイロットが「スコード…!」とコクピットの中で祈りを捧げているのが印象的。スコード教そのものは単に地球を統率する為のでっち上げの宗教のはずであったと推測されるが、月側のMSパイロットまでがそのでっち上げの宗教の信徒であるというのは非常に興味深い。支配の為の虚構の宗教であったはずが、自分達までもがそのでっち上げに呑まれている、という事か?


 とりあえず戦闘の方は終了。各母艦へと戻るMSパイロットら。
 マスクが先程ギニアビザに取り付けた装置の中には、地球移住を条件に降参を求めるメッセージが入っている模様。降参そのものよりも、敵兵の内部分裂を期待している模様。で、面白い事に、全く同じメッセージをクリム側も送っているらしい。お互い見下しているらしいマスクとクリムだが、やってる事は両方同じようなもん、という皮肉の利いたシーンである。

 メガファウナの方はと言うと、一段落ついたからかここでようやくラライヤの回復を祝うベルリ達。ラライヤに駆け寄って手を伸ばすベルリに、その手を掴んで「触らない」と制するアイーダ。ベルリとアイーダ姉弟設定を既に知っている身だから余計にそう思うのかもしれないが、やはりアイーダはベルリを弟扱いだ。

 月側では熱血漢、というよりナショナリズムに傾倒している気配のあるロックパイ君が帰投。ここ長身褐色でビジュアル的にも非常にキャラの立ってるマッシュナー中佐さんと、ロックパイ君とのちょっとあやしげな関係が見物。この2人もGレコ男女カップルのご多分に漏れず「女が男を戦わせる」といった関係だが、こちらは年上の仕事バリバリなお姉さんが若い燕に説教しつつ心酔させる事で、男側のモチベーションを維持している模様。「男を戦わせる女」もイロイロである。


 視点はメガファウナへと戻り、先程投降した月MSパイロット、リンゴ・ロン・ジャマロッタ君の尋問(?)シーン。ナショナリストロックパイとは対照的に、リンゴ君の方は自国に対する帰属意識は極めて薄く、むしろ若干自国民を馬鹿にした雰囲気すらある。ここでも人間イロイロだ。
 リンゴ君の話を聞いてトワサンガ行きの決意を新たにするアイーダだが、ここで今話中屈指の「女が男をおだてて戦わす」シーン。

アイーダ「ベル!」
ベルリ 「えっ! 何で僕なんです?」
アイーダ「今日の見事な戦い方で知りました。あなたは立派な戦士です。違いますか?」
ベルリ 「人をおだてたって、早々乗れるものじゃありませんよ?」
アイーダ「能力がある人は、その義務を果さなければならないんです!」
ベルリ 「おだてには、乗りません…!」

 アイーダはどうもベルリを通して「姫様」としての人の上に立つ振る舞いを身に付けていってる模様。ベルリの方はストレートに褒められた事に嬉しがりながらも、騙されないぞという態度をとっているのが見てる側としては楽しい。

 そしてそこに横からノレドが

「男をやれって言われてんだろ! 嬉しがってやりな!」

とベルリの背中をさらに叩く。ノレドの方はおだて役はやらない模様。ここで遂に覚悟を決めたベルリが

「僕がここに帰って来られたのも、皆がいてくれて、メガファウナがあったからです! だったらやることはやってみせます!」

と戦いの宣言。
 この一連のシーン、グダちんさんが看破している(http://d.hatena.ne.jp/nuryouguda/20150110/1420829306)ように、要は「武功を立てた騎士に女王が殊勲する」という構図となっている訳だ。「戦いの決意を新たにする主人公」という意味ではロボットアニメ的に素直に盛り上がるべきシーンではあるが、しかしそこにはどこか歪さも隠されているような気にもなる。何しろ煽てた先にヒロインが主人公にやらせようとしているのは「戦場に出て前線で戦え」という命令なのだ。この一連の「儀式」を我々はさてどう受け取ったものだろうか?
 とにもかくにも目指すはトワサンガ、という所で次回に続くのである。

 という訳で、トワサンガを目指して出発した御一行。次回のタイトルも「飛べ! トワサンガへ」とロードムービー感全開! と思いきや、どうも予告では次回既にトワサンガに到着するらしい。はええ!? 富野お得意の宇宙艦隊戦が炸裂しそうな気配も濃厚で、気になる事甚だし。宇宙に提灯が浮かんでいるらしいが、それはともかく次回も見る!のだ。