この勝利によりオジュウチョウサンのこの年の成績は、JGI春秋連覇を含む重賞4連勝という、およそ障害馬としてはこれ以上無い完璧な内容となる。
特に、東京障害重賞コースと中山大障害コースは一般に適性が大きく異なり、両方を制すことのできる馬はそこまで多くは無い。その両コースの重賞を共に春秋制覇している点は、歴代の障害王者と比較しても特筆すべき成績である。
2016年の障害界を完全制覇したオジュウチョウサンは、当然この年のJRA賞にて最優秀障害馬に選出される。しかも満票での選出だ。最優秀障害馬の満票選出は記録上は1974年と75年のグランドマーチス以来、41年ぶり史上2頭目の快挙となる*1。
こうしてオジュウチョウサンは、名実共に誰もが認める障害王者の座に君臨することとなった。
そして明けて6歳。めぼしい有力馬とはあらかた勝負付けを済ませてしまったオジュウチョウサンにもはや敵は無かった。
始動戦の阪神スプリングジャンプ(JGII)では道中他馬からの包囲網に包まれながらも全く意に介することなく快勝。
そのまま本番の中山グランドジャンプに単勝1.3倍の人気を背負って出走すると、仕掛け所に迷うアップトゥデイトを向こう正面であっさり抜き去り、道中溜めた脚で後方から強襲を仕掛けたサンレイデュークも持ったまま突き放し、悠々と先頭ゴールイン。
打倒オジュウチョウサンに燃える他陣営を軒並み子供扱いする完勝劇で、何の波乱も無く史上初のJGI3連覇を果たして見せた。
日本の競馬体系における障害競走最高峰の中山大障害コースだが、1935年から続く長い歴史を紐解いても、このコースを3勝以上した馬は、バローネターフ(5勝)、グランドマーチス(4勝)、フジノオー(4勝)、カラジ(3勝)、ポレール(3勝)の5頭のみしかいない。2勝馬ですらアップトゥデイトを含めて15頭しかいないのだ。
さらに付け加えると、前年の中山グランドジャンプから続いた重賞6連勝は日本競馬における障害重賞連勝記録である*2。この勝利によりオジュウチョウサンは、単なる現役最強馬を越えて歴史的名馬となったと言って良い。
抜群の安定感で完勝を続けるオジュウチョウサンを、いつしか人々はこう呼ぶようになった。「絶対王者」と。
障害馬として6歳はまだまだ若い部類である。どこまで連勝を伸ばすのか、オジュウチョウサンのこれからにファンは夢を膨らませた。
しかしそんなファン達の耳に「オジュウチョウサン骨折」のニュースが飛び込んできたのは、中山グランドジャンプの勝利から僅か4日後のことだった。
*こぼれ話*
最優秀障害馬における満票選出の少なさはグランドマーチスとオジュウチョウサンがそれだけ抜けて偉大と言うより、JRA賞の投票記者の中に障害路線を軽視する者が少なからず存在するからに過ぎない。障害レースに一切興味が無いという消極的理由なのか、それとも障害路線廃止論者なのかは知らないが、無条件にほぼ毎年「該当なし」に投票し続けている記者が複数名存在する。グランドマーチスとオジュウチョウサンの2頭と比べても遜色無い年間成績をおさめながら、不可解な「該当なし」票により満票選出を逃した最優秀障害馬が日本競馬史上には何頭も存在する。
この「史上2頭目」という記録に関してはオジュウチョウサンを称える文脈よりも、障害路線を軽視し続ける競馬記者らへの批判文脈で取り上げられるべきだと思う。
ちなみにオジュウチョウサン自身までもがこの翌年に1票の「該当なし」により満票選出を逃し、当該投票記者に非難が集中したのは記憶に新しい所。