オジュウチョウサン物語 第2章3「『縁』の血統」

 

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 前述の通り長山は一口出資馬にせよ自身の所有馬にせよ、血統理論に基づき吟味に吟味を重ね、牧場に脚を運び馬の姿をよくよく観察してから出資・購入を決定する。しかしながら、長山には血統理論や実際の馬体と同じくらいに、いや、ひょっとしたらそれ以上に馬を決める際に重視しているファクターがある。
 それが「縁」である。
 
 ステイゴールドに出資したのも、一口馬主として初めてのGI馬であるサッカーボーイの甥だったことが大きな決め手だった。その後もステイゴールド産駒を重視しながら出資を続けた結果、長山は三冠馬オルフェーヴルを引き当てている。個人馬主となってからも購入馬のほとんどは一口馬主として出資した馬の産駒たちである。
 初重賞を長山にプレゼントしたチョウサンにしても、個人馬主として2頭目の所有馬であるステイヤングに、一口出資馬だったダンスインザダークを付けて産まれた馬だ。そのステイヤングからしてこれまたサッカーボーイの産駒なのである。
 
 オジュウチョウサンの母であるシャドウシルエットは元々、競走馬としては別の馬主の所有馬だった。体調面の問題もあり現役時代は結局ただの一度も出走することのなかったシャドウシルエットを、引退後わざわざ長山が繁殖牝馬として購入したのも、そこに「縁」があったからだ。
 シャドウシルエットの半姉に、パーフェクトジョイという牝馬がいる。馬主は名義こそ社台グループの吉田勝己個人となっているが、実際には複数名のクラブ会員で持ち合いされていたようで、長山もその出資者の内の一人だった。生涯成績は23戦5勝。重賞にこそ手が届かなかったが獲得賞金は1億を越える馬主孝行娘だった。
 この馬が実はステイゴールドの初年度産駒、あの177頭の内の1頭なのである。
 
「この血統にステイゴールドの血は合う」
 
 そう確信した長山は、パーフェクトジョイの2歳下の妹に、サンデーサイレンスの血を持たない上に未出走引退のため格安で購入できる牝馬がいることに目をつける。それがシャドウシルエットである。
 
 シャドウシルエットを150万という安値で購入した長山は、5年続けてステイゴールドの種を付け続けた。結果はすぐに現れた。初年度産駒のケイアイチョウサンがラジオNIKKEI賞GIII)に勝利し、牡馬クラシック最後の一冠の菊花賞でも5着に入線したのだ。長山にとって個人馬主としてはチョウサン以来2頭目の重賞馬である。
 自身の血統理論の正しさが証明されたのだから、ケイアイチョウサンの活躍に長山は大いに歓喜した。
 
 チョウサンの名を持つ馬の多くは、長山の家族の名に由来した馬名を持つ。ケイアイチョウサンのケイアイは「紀美代(K)愛(I)してる」の略だと言う*1。紀美代とはもちろん長山の妻の名だ。
 当然ケイアイチョウサンの弟妹達にも家族の名前を付けようと考えた長山だが、ケイアイチョウサンの翌年に産まれたシャドウシルエットの次男坊が、長山自身の次男の息子である和浩と同じ誕生日であることに気付く。「よしコレだ」と思ったが、残念なことに和浩の愛称を使ったカズチョウサンという馬名は、既にケイアイチョウサンと同じ年に産まれたチョウサンの全弟馬に与えてしまっていた。さてどうするか。思案する長山の脳裏に一つのアイディアが浮かんだ。
 
「そういえば和浩のヤツ、幼い頃は『オレ』と上手く言えずに、自分のことを『オジュウ』『オジュウ』と呼んでいたな」
 
 もはや説明するまでもないだろう。こうして名付けられた馬こそが、後に絶対王者の名を欲しいままにするオジュウチョウサンなのである。

 

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*こぼれ話*
 カズチョウサンの「カズ」が長山和浩氏の名前から来ているという話に関して、文中では断定口調で書いたが直接的なエビデンスは実は無い。長山オーナーがJRAに提出している馬名由来には「家族の愛称+冠名」となってはいるので、多分間違ってないんじゃないかと思うが、あくまで状況証拠からの筆者判断に過ぎない点に注意されたし。

*1:別の馬主(亀田和弘氏)が冠名としてケイアイを使用しているため、ケイアイチョウサンがラジオNIKKEI賞を勝利した時は亀田氏の所有馬と勘違いする競馬ファンが続出した。