ローリング☆ガールズ1、2話感想 モブという名の人はいない

 えー、2015年冬アニメではローリング☆ガールズが頭1つ分抜けて気に入りました*1。元々Gレコ終わりのCMの元気一杯な感じと音楽が気に入ってて、1話で「これは俺嫌いじゃないぞ?」となって2話がやたらめったら好きになってしまうという流れ。 ので折角だからちょっと記事書いとこうと思ったので書いとく。

守られてばかりだった少女が一念発起、平和を守る旅に出る。
行く手に待つのは魔法使いか怪獣か、はたまた巨大ロボットか。
ご当地色をきわめつくした各地をめぐり、仲間とかさねる奮闘努力、
汗と涙は報われるのか–––。
どこまでいっても普通の子という宿命を背負い、
どれでもがんばる少女四人組が織りなす
新感覚・青春ロードムービー      (公式ホームページより)

 舞台は一応架空の日本ではあるが、非常におおらかで漫画的な世界観。大阪では通天閣ロボがハリセンを振り回してるような世界だ。しかし、単におおらかでええ加減かと思えば、まだ伏せられたままのイロイロ細かい設定もちょこちょこあるようだ。1話2話は世界観の説明と、主人公が旅立つまでが描かれる。

  地方自治をめぐる「東京大決戦」の終結から10年、都道府県市町村がそれぞれ独立国家として名乗りを上げた日本列島。そんな中で日々勃発する紛争揉め事を各国の代表が肉弾バトルでケリをつけるというのが世の中の決まり事らしい。そこで各国代表として戦うのが特殊能力者の「モサ」(おそらく猛者の意)と呼ばれる人達で、対してそれ以外の非能力者は「モブ」と呼ばれる。


 いくつかある世界設定の中でも、特に最も今作で重要と思われるのがこの「モブ」と「モサ」の設定だ。生粋の「モブ」である主人公の望未(のぞみ)は、特に何の取り柄もないごくごく普通の女の子。



 そんな望未が、怪我をしたモサの親友、所沢の平和を守る秘密のヒーロー真茶未(まさみ)の代わりに、助けを求める人々の願いを聞き届ける為に旅に出る、というのが2話までの内容。2話終盤で、バイクにまたがり旅立つ望未は1人心の中で呟く。

「守られっぱなしは、嫌だ!」

と。

 このストーリーラインに加えて、PVにある「主役=モブ=普通の女の子」のキャッチコピーからは、このアニメが「無個性なモブという境遇をはねのけて、オンリーワンな自分自身を見つける少女達の物語」である事は想像に難くない。このアニメでは物語の主役たる「モサ」と、物語には関与できない「モブ」との対比が重要なテーマとなる訳だ。

 さてでは実際にアニメ本編中でモブはどう描写されているのかと言うと、これがなかなか面白い。というのもこのアニメ、主人公ら含めモブキャラクター達が、誰も彼もとてもモブとは思えない程の個性を発揮しまくるのだ。

 望未が属する所沢の自警団「日吉町プロペラーズ」のメンバーは、望未と真茶未の2人以外は劇中でほとんど名前すら呼ばれず、主人公が2話のラストで故郷を旅立ってしまった以上、以降は画面の端に描かれる事すらほぼ無い事が予測される。そういう意味では彼らは生粋のモブと言って良い。


(公式HPより。皆名前がつけられているが、劇中ではほとんど呼ばれない)

 にも関わらず彼らは、そんな物語上の制約を一切無視するかのように、自分達のキャラクター性を存分に発揮する。
 いつもワニの被り物を被っているクロコダイルに、猫(?)耳の髪飾りをつけたみいたんが、特にビジュアルでは目を引く所だが、それ以外の面々も負けてはいない。ビジュアル的には最もモブっぽさが色濃い左上の田さんなどは、2話ではクロコダイルを助ける為にジェットコースターから自ら飛び降りるという大立ち回りを見せている。



 個性豊かなのは日吉町プロペラーズのメンバーだけではない。公式ホームページ上にすら記載されていないレベルのモブキャラクター達にすら、それぞれに固有の個性が付与されている。個人的に印象深いのは、日吉町プロペラーズの敵対組織である北多摩デンジャーズのメンバーの1人だ。

 秘密のヒーローとして正体を隠して戦う真茶未が、実は周囲には正体がバレバレだという事が判明した際に、彼はモブらのバカにするようなガヤ台詞の中に混じって

「僕は嫌いじゃないぞ!」

と真茶未を擁護するような台詞を口にしている。あくまでガヤ台詞の内の1つとして、だ。
 そして真茶未が戦いの最中に、主人公の望未との思い出語りをしている最中、薄らと感動の涙を流している。

 この2シーンだけで彼の人となり、個性が活き活きと伝わって来るが、恐るべき事に、ここまで個性的な彼だが、まともな台詞は上記のようなガヤに紛れた一言二言だけでしかない。ここまでのキャラクター性を備えていながら、あくまで彼は名も無きモブの1人にすぎないのだ。

 モブが目立つのは何も単に彼ら自身のキャラクターの濃さだけでは無い。このアニメでは描写レベルで主人公らとモブらとが、極めてフラットに描かれる。
 2話は全編通して真茶未と敵対組織の「モサ」である執行(しぎょう)とのバトルが話の主軸となっているが、物語の主役たる彼女らの台詞の合間合間に、モブ達は実に好き勝手にガヤ台詞で茶々を入れる。時には2人に対する辛辣なツッコミも多く、ニコニコ動画では「モブが厳しいアニメ」というタグがつけられたのは象徴的だ。

 そして中でも面白いのが、真茶未が「望未に心配をかけたくなくてずっと正体を隠していた」と告白するシーン。ここでは本来、重要なのは思い出を共有している望未と真茶未の2人だけで、深い事情を知らない他のキャラクターらはあくまで添え物にすぎないはずだ。

 しかし、だ。上の絵を見て欲しい。「モサ」である真茶未の方はともかく、この画面だけを見て「モブ」の中の誰が重要人物かをしっかりと判別できる人は皆無であると言って良いだろう。ここでは物語上重要なはずの主人公望未と、他のモブの面々とが、絵として特に区別せずに、驚く程フラットに描かれる。
 そして勿論ここでも、望未と真茶未の会話の合間に、逐一モブのガヤガヤしたツッコミが空気を読まずに挿入される。

 ここで急に他のモブの中から飛び出し、真茶未の想いに共感して主人公に喝を入れようとするキャラクターが突如現れる。

 実はこのキャラクターこそ3話以降で望未と共に旅をする、4人の主人公キャラの内の1人である。しかしそのはずなのだが、もはやここまで来るとコイツが主役格なのか単にたまたま目立つ行動をした単なるモブキャラなのか、我々には全く判別がつかない。むしろ彼女に(間違えて)殴られたクロコダイルの方がよっぽど目立っている。

 このアニメでは「モブ」と「モサ」という設定によって、物語に関与できる者とできない者に設定上の明確な線引きを行っている。にも関わらず、劇中の描写自体はモブと望未をはじめとした主人公らの間に一切線引きをせずに描く。1、2話の段階では、主人公として設定されている4人の面々が、正真正銘に他のモブキャラとほとんど変わらずに描かれているのである。

 「何の変哲も無い普通の高校生」という設定の主人公を、これまでに何度繰り返し見てきた事だろうか。そしてその中で、本当にモブと変わりのない主人公を見た事が、何度あっただろうか。
 ローリング☆ガールズでは、誰も彼もが元気一杯に生きている。それが物語の主役であろうと、端役のモブであろうと。

ローリング☆ガールズのタイトルロゴには、一節の英文が記述されている。

Rolling, Falling, Scrambling Girls. For others. For themselves.
Even if They’re designed to be “mob”.

「少女達は、転がり、落ちて、這い上がる。人々の為、そして彼女ら自身の為に。
 たとえそれが、”モブ”である事を運命づけられていたとしても」

 雑草という名の草は無い。そしてそれと同様に、モブという名の人などいないのだ。
 2話のラストで、ブルーハーツの名曲「月の爆撃機」をバックに故郷を旅立つ望未の姿を見て、私はこのアニメに最後まで付き合う事を心に決めた。



(つって絶賛してるみたいだけど、ぶっちゃけ完成度的な意味だとかなりガタガタなアニメだと思う。展開も随分とノロノロしてて、1話2話の内容をそのまま1話に詰め込んでも充分お釣り来そうなくらい。まあでも、肝心なのはやれてる事じゃなく、やろうとしてる事の方ですよ。そこを好きになれたら、多少の疵瑕なんてどうでも良い)

*1:ちなみに他に1話見たのは艦これ、デレマス、ユリ熊嵐、幸腹の4つ。視聴継続はユリ熊嵐くらい。一番面白かったのはデレマスだけど、その分一番続き見る気にならなかったのもデレマス、という私の面倒くさいアニメファン根性が如実に発揮された感がある