オジュウチョウサン物語 第5章6「王者復活」
レース当日、前日から続く雨により馬場はかなり重くなっていた。骨折休養明けに重馬場の障害レース。出走メンバーも重賞上位常連組が揃っていたこともあり、1番人気には支持されつつも「オジュウチョウサン本命を外すならココ」と予想を立てていた馬券屋も多く見られた。
しかしここでオジュウチョウサンは我々に衝撃的なレースを見せる。
レースが始まると軽快にスタートした6番人気タマモプラネットが、石神と同期の小坂忠士を背中に乗せて、とんでもない大逃げをし始める。
後続にグングン差をつけると、2周目の向う正面では2番手グッドスカイまでですら17、8馬身。3番手のオジュウチョウサンまでは20数馬身差という大差の一人旅を披露する。
観客たちの脳裏にクィーンスプマンテ*1やビートブラック*2がよぎった。
4コーナーでグッドスカイを交わし2番手に立ったオジュウチョウサンだが、それでも先頭タマモプラネットまではまだ10数馬身。いくら直線の長い東京競馬場と言えども今日はスピードの出にくい重馬場である。しかもオジュウはメンバー唯一のJGI馬として斤量62kgのトップハンデを背負っているのだ。場内に実況の声が響く。
「小坂忠士の策が決まるか!」
この時点でオジュウチョウサンの馬券を握りしめていた競馬ファンらは「流石に届かないのでは……」と青ざめ、「なんであんな大逃げ呑気に許しとんねん下手くそ!」と騎手の石神に罵声を浴びせた。
しかしここからが凄かった(はて、1年前も似たようなことがあったような?)。
直線で石神がスパートをかけると、オジュウチョウサンは重馬場の障害コースを3000m近く走った後だとは信じられないほどの加速を見せる。直線入り口ではまだ10馬身を優に超える程にあったはずの2頭の差が、驚く間もなく一気に詰まる。残り1ハロンを残しタマモプラネットを抜き去ると、そのスピードのまま突き放し、ゴール板を通過した時には逆にオジュウチョウサンの方が10数馬身の大差をつけていた。
JGIでもない障害重賞にも関わらず、東京競馬場では雨の中、観客から大きな拍手が巻き起こった。聞けば他の競馬場や果てはWINSまでも同じ状況だったと言う。
故障休養の影響を微塵も感じさせない、いやそれどころかさらなる成長すら感じさせる絶対王者の復活劇に、障害ファンだけでなく多くの競馬ファンが酔いしれた*3。
オジュウチョウサンにかなう馬など、もはやどこにも見当たらない。暮れの中山大障害を制し、JGI4連覇の快挙を達成するのはもう決まったも同然。誰もがそう確信していた。
はずだった……。