5歳となったオジュウチョウサンは3月に中山競馬場の障害OPで2着と好走したのち、再度JGI挑戦を目指し、春の大一番中山グランドジャンプへと向かうことが決まった。
この年の中山グランドジャンプは昨年の中山大障害1〜3着馬の再戦が大いに期待されていた。
2着のエイコーンパスは年明けから牛若丸ジャンプステークスと春麗ジャンプステークスのOP特別を連戦し1着2着と好状態をキープ。1着馬アップトゥデイトと3着馬サナシオンは揃って阪神スプリングジャンプ(JGII)に出走し他馬を寄せ付けぬワンツーフィニッシュ(ここではサナシオンが勝利している)。
この3頭の叩き合いに障害ファンらは胸を躍らせていた。
がしかし、レース本番を2週間前に控えながら、アップトゥデイトの短期休養とエイコーンパスの故障引退とが、わずか数日の内に立て続けに発表された。3強激突の中山グランドジャンプは、あっという間にサナシオンの一強レースへと変貌した。
この年の中山グランドジャンプを回避した期待馬はこの2頭だけではない。既に重賞を6勝し、この年の春麗ジャンプステークスではエイコーンパスを破ったオースミムーンと、前年の京都ジャンプステークス(JGIII)を制覇し、中山大障害でも4着と好走したダンツミュータント。
3強に次ぐ存在だったはずの2頭が3月半ばにそれぞれ故障による長期離脱と引退を発表していた*1。上位5頭の内4頭までもが姿を消したことで、この年の中山グランドジャンプは「創設以来、過去最低レベルの出走メンバー」とまで言われることとなった*2。
元々サナシオンに関しては中山大障害コースへの適性の低さが懸念されていた。障害馬としては飛越の低いスピードタイプであったため、4000mを超える超長距離に加えバンケットの激しいアップダウンと大生垣と大竹柵という2つの大障害を擁する中山大障害コースでは、スタミナ不足を起こすのである。昨年の中山大障害の3着惜敗も、明らかにスタミナ切れが原因だった。
そのため、前走の阪神スプリングジャンプでこそアップトゥデイトに勝利しているものの、中山グランドジャンプではまたアップトゥデイトに再度逆転されるだろうという見方が有力だったのだ。しかしそんな懸念も、他の有力馬の一掃によりかき消えた。
多少の適性不安は絶対能力の差で十分カバー可能。そう予想されたサナシオンはレース当日、当然のように単勝1.3倍の1番人気に支持された。
さて我らがオジュウチョウサンはと言えばだが、「過去最低レベル」と言われた出走馬表が思わぬ事態を招いていた。前走OP2着のオジュウチョウサンが、なんとサナシオンに次ぐ2番人気に支持されたのである。とは言えもちろん押し出された結果の形だけの2番人気でしかなく、あくまで単勝オッズは6.3倍。サナシオンの1.3倍とは程遠い大差を付けられていた。むしろ、重賞では馬券内経験すらないオジュウチョウサンが2番人気という事実が、より雄弁にこの年の出走馬の層の薄さを物語っていたと言えるだろう。
実態としてはオジュウチョウサンもまた他の馬たちと同様、サナシオンの完全なる脇役扱いであったと言って良いだろう。