理系学習マンガは誰を先生役にし、誰を生徒役にしてきたか。−NHKキズナアイ騒動をうけて

ブログの方では毎度お久しぶりのあでのいです。

さてここ数日、今をときめく大人気バーチャルyoutuberキズナアイさんがNHKノーベル賞解説番組特設サイトにて出演なさった事に対し、とある社会学者教授さんが盛大に噛みつき、それが火種となってネットの片隅を揺るがす大論争が巻き起こっているのは、皆さんもご存知の通りと思われます。

批判論点については当の教授先生がいろいろウネウネ話を捏ねている訳で、まあ詳しくは当人のweb記事を読んでもらうとして、個人的にはその中の
「女性は理系が苦手という偏見が社会にある中、それを追認するように先生役に男性、聞き手役に女性を配置させる事がジェンダーギャップ問題への意識に欠ける」
って辺りの話がちょっと気になりまして、こうして筆をとった次第。

というのも私不肖あでのい、ここ10数年くらい理系科目の高校〜大学生向け「漫画で学ぶ◯◯」系漫画にはできるだけ目を通すようにしてるので、サブカル界隈の「教師役」「生徒役」のキャラ割り当てについては割と一家言あるのです。

という訳で本記事では、ここ10年くらいの「漫画で学ぶ◯◯」系漫画において、先生役生徒役にどんなキャラクターが配置されてきたかについて紹介してってみようかなと思います。まあ「紹介してどうすんの?」という話ではあるんですが、ぶっちゃけ件の論争についてはまともに参戦するのも面倒臭いというのが正直な所でして、本記事ではあくまで実例の提示だけにとどめて、そっから何を見出すかは読者に委ねようと思います。

という訳で興味ある方は読んでって頂けると幸いです。


はじめに – 近年の学習漫画の変化について

まずは少し前置きというか、近年の学習漫画の変化について少し触れておこうと思う。本題だけ知りたいという人は、下の実例紹介の下りまで飛んでもらって問題無い。

私が理系の学習漫画に積極的に手を出し始めたのは2000年代の半ば、当時17,8歳頃で科学の道を志すようになったのが原因だ。最初は単純に「初心者向けで分かりやすいし」という極めて真っ当な理由で読み始めたのだが、元来の漫画好き評論好きと相混じって「学習漫画」という形態そのものに興味を持つようになり、以来10数年、そこまで積極的に収集しているという訳ではないが、理系科目の「漫画で分かる」「漫画で学ぶ」と冠された学習漫画は見かけたらなるだけ目を通すようにしている(ここ数年はちょっとサボり気味だが)。

学習漫画の古くからの詳細な歴史について熟知している訳ではないが、そもそも理系の専門的な分野の学習漫画自体は、2000年以前にはほぼほぼ存在していなかった。学習漫画と言えば伝記や歴史を中心にした小学生向けのものがほとんどであり、年齢層の高めな書籍も趣味や健康などをテーマにした内容が支配的だった。

それが2000年以降、特に半ば頃から「漫画で学ぶ」系の書籍が爆発的に増加した。大阪市立図書館ホームページの蔵書検索で「マンガでわかる」で調べてみると(この表記方法が最も検索結果が多く出力される)、1990年から2004年までが120件、2005年から2018年までが728件と、6倍以上の増加を見せていることが分かる。検索結果もチラッと見るだけでも、専門的な理系分野をテーマとしたものが大幅に増えていることが分かるのではないだろうか。
(なぜ大阪市立図書館かは単にウェブブラウザのブックマークに入れていたからである)

さらに加えて言えば、タイトルに「漫画」と記載していながらも、実際には本当に漫画形式になっている訳でもなく、単にキャラクターイラストが多く描かれているだけ、という書籍もかなり含まれる。一例として以下に2000年に講談社ブルーバックスから出版された「マンガ量子論入門」を挙げる。

マンガ量子論入門―だれでもわかる現代物理 (ブルーバックス)

マンガ量子論入門―だれでもわかる現代物理 (ブルーバックス)

ページ抜粋

この書籍が出版された2000年には既にこういった形式の本を「漫画」と呼ぶのはかなりマイノリティであったし、そもそも漫画文化に差異のあるイギリスで出版された書籍の邦訳なので、この本を例に挙げるのは少々アンフェアであるが、こうした形式の本にも実際90年代以前は「漫画」とタイトルに表記されていたりしたのだ。

さて、この学習漫画の爆発的増加の背景には当然「漫画」というジャンル自体の地位向上が大きいが、中でも所謂「萌えブーム」を影響は非常に強く、ゼロ年代中盤以前以降とでは学習漫画のイラストの雰囲気は全く異なるものとなっていると言って良い。90年代以前の作品の多くは(無論例外もあるが)、概ね流行の漫画文化とは離れた個性薄めの絵柄だった(70年代あたりの非劇画調の漫画絵、例えばドラえもんや009のような、と言うと語弊も若干あるが、まあそんな所)。

これまた1例に同じく講談社ブルーバックスの「マンガおはなし数学史」を紹介。こちらも出版は2000年である。

マンガ おはなし数学史―これなら読める!これならわかる! (ブルーバックス)

マンガ おはなし数学史―これなら読める!これならわかる! (ブルーバックス)

なんとなく、「ああ、学習漫画の絵柄ってこんなもんだったよね」と思って頂けるのではないだろうか。

一応、萌え文脈を大いに汲んだ学習漫画シリーズとしてはあさりよしとお先生の「まんがサイエンス」などもあるが、(秘めたるフェティッシュの深遠さはともかく)少なくとも初期数巻の表紙パッと見ではそこまで「萌え」の雰囲気を押し出したものでは無い(この辺は実際まんがサイエンスの表紙を出版順に並べて眺めてみると色々感じるものがある)。

まんがサイエンス 1

まんがサイエンス 1

詳しくは後述するが、それに比べるとここ10数年間に出版された学習漫画(特に理系高校生大学生向け)の絵柄は普通の漫画雑誌に載っていても違和感なく、萌え絵の文脈を大いに含んだものがほとんどになる。
これまた講談社ブルーバックスより2011年刊行の「マンガで読むマックスウェルの悪魔」。

マンガで読む マックスウェルの悪魔 (ブルーバックス)

マンガで読む マックスウェルの悪魔 (ブルーバックス)

一気に垢抜けた絵柄になっていることが分かるのではないだろうか。
これは児童文学の世界でも近いことは起きているそうで、出版界全体の潮流でもあるようだ。詳細は以下のまとめを参照されたい。

児童文庫のカバー、挿絵の変遷から考える「大人は子供たちの欲しがるものを少し信頼してあげよう」ということ - Togetter

ゼロ年代以降の高校生以上向け理系学習漫画の紹介

さて、長い前置きではあったが、ここから実際に私が所持している理系学習漫画を一つ一つ紹介していって、本題である「教師役と生徒役にどんなキャラクターが配役されたか」を見ていきたいと思う。ただし、書籍は先ほどから何度か紹介している講談社ブルーバックスと、それに加えてオーム社の「マンガでわかる」シリーズに限定する。これは前者の講談社ブルーバックスが名実共に日本における科学啓蒙書の総本山であること、後者のオーム社「マンガでわかる」シリーズが10数年に渡って理系科目の専門的な内容をテーマにした学習漫画を日本で最も継続的に出版して送り出していること、そして私自身もこの2社の書籍に関してはかなり網羅的に目を通していることの3点が理由である。
なお、元々がジェンダーギャップ論争が発端なので、ちゃんと男女に分類した上で最後に集計しておこうと思う。集計結果だけ知りたい人は一気に飛んでくれても問題無い。


マンガ おはなし数学史―これなら読める!これならわかる! (ブルーバックス)

マンガ おはなし数学史―これなら読める!これならわかる! (ブルーバックス)

出版は2000年12月。ブルーバックスではこれ以前にも漫画本形式の書籍はいくつかあるが、いわゆる前時代的な理系学習漫画の代表として2000年のこの本から紹介を始める。
内容は完全にどこでもドアな形状のタイムマシンを使って、時間旅行をしながら数学の歴史を学ぶという内容。
タイムスリップしながら各時代の偉人に教えを請う内容なので、あまり教師役の性別は関係無いように思うが、案内役の先生が男性なので、とりあえず教師役は男キャラとしてカウント。
面白いのが生徒役で、女子中学生に男子高校生、成人男性に老人女性と、かなりバラエティに富んだキャラクター配置となっている。


マンガ 化学式に強くなる―さようなら、「モル」アレルギー (ブルーバックス)

マンガ 化学式に強くなる―さようなら、「モル」アレルギー (ブルーバックス)

2001年6月出版。「萌え系」とまで言って良いかはかなり微妙だが、前年出版された「おはなし数学史」と比べるとかなり現代風でポップな絵柄になっている。というか作画担当はファミ通などでおなじみの鈴木みそ先生だ。
内容はイケメンだが化学バカの男子大学生に、化学嫌いで恋愛脳なギャルめの女子高生が下心アリアリで家庭教師を頼み込み、苦手な化学を克服していく内容。中身はかなりしっかりしていて、高校1年レベルの化学を数式も使って説明していく。

私がこれを読んだのは確か高2の夏だったと記憶しているが、初めて読んだ時はかなり衝撃的だった。歴史漫画や雑学系などはともかくとして、これまでこうした学校の授業内容を追いかけるタイプの学習漫画と言ったら、「漫画」としては正直「毒にも薬にもならない」程度の内容だと思っていたので、絵柄は勿論、女の子の方がギャルでラブコメストーリーとしても面白い、というのは全くの予想外だったのだ。2001年当時としてはまだかなり異端だったと思う。
配役は先生役に「理系男性」、生徒役に「理科嫌い女子」とで、千田女史らが怒り狂うであろう典型的なジェンダー配役。


立て続けにブルーバックスから2冊紹介したが、ここからしばらくブルーバックスから漫画本の出版は見られなくなる。その間に現れたのがオーム社の「マンガでわかる」シリーズだ。


マンガでわかる統計学

マンガでわかる統計学

2004年7月出版。オーム社「マンガでわかる」シリーズの記念すべき第1弾。「統計学」というちょっと第1弾にしては変化球気味な題材は、実はシリーズ化する予定は本来無かったのだろうかと考えさせられる。
内容は上記の「化学式に強くなる」と多少似ており、数学苦手めな女子高生がイケメン目当てで統計学に興味があると言って家庭教師を頼もうとする話。が、実際家庭教師に現れたのは目当てのイケメンでなく瓶底メガネの冴えないオタク男で…という内容。学習漫画としては種々の分布関数を紹介するあたりから「初心者が漫画で学ぶ」という目的からしたら結構説明が苦しくなっているのだが、これは本の問題と言うより統計学の宿命と言った所。

表紙を見て分かる通り、かなり今風で萌え絵寄りな絵柄(と言っても10年前の漫画なのだが)。「大学レベルの数学を学習漫画の形式で」というコンセプト自体が当時としてはかなり珍しかったのだが、そこに堂々と一般的な漫画雑誌でも見かけるような可愛い萌え絵を載せてくるという手法は学習漫画界的にかなり革新的だったと思う。
ただまあ、当時はこの前年に「もえたん」も発売されており、何というか、アレもコレも全部萌えキャラ化じゃあ的な雰囲気の萌芽を日本全体あちこちで見かけていた頃でもあり、「とうとうこのレベルの理系本にまで」という気分もあった。
で、当然配役は先生役が男キャラ、生徒役が女キャラ。

ちなみにシリーズ第1弾である統計学は、この後「回帰分析編」「因子分析編」と続編が続き、キャラも継続して出演しているそうなのだが、そちらの方は残念ながら未読。


2005年1月出版。「しばらくブルーバックスから漫画本は出ていない」と言ったが、これは漫画でなく小説形式。ただ表紙を見てもらえば分かる通り、ラノベ的なものを志向しているのは明らかで、挿絵も豊富なのでこちらも番外編的に紹介しておく。
内容は歴史系の定番の所謂「時間旅行モノ」。案内役が男性教師、生徒役は女子高生と男子高校生が一人ずつ。

ところで、元の騒動ではジェンダーギャップとして「先生役が男性で聞き手が女性」というステロタイプが批判された訳だが、実は生徒役に男女両方が配置された場合のステロタイプというのも多少あって、概ね女の子の方が真面目で勉強ができるタイプ、男の子の方が勉強嫌いで奔放なタイプが配置されやすい。本書はまさにそういったキャラクター設定で書かれている。
こうしたステロタイプもこれはこれで「女の子は大人しくしていなきゃ」という抑圧の現れとも取れるし、「男の子なんて基本バカ」という偏見の現れともとれるのだが、その辺もやはりジェンダー学的には批判対象なのだろうか。


マンガでわかる微分積分

マンガでわかる微分積分

2005年12月出版。オーム社「マンガで分かる」シリーズ第2弾(正確には統計学回帰分析編が挟まるので正確には第3弾)の微分積分。同時発売に「データベース」があるのだがそちらは未読。
テーマが微分積分の割に舞台は新聞社で登場人物は皆社会人。会社の先輩後輩がそのまま先生役と生徒役。先生役は男性で生徒役は女性。登場人物を反映してか、内容も高校や大学の数学と言うより、実社会での実用例をふんだんに交えた「社会人向けの学び直し」の雰囲気を感じる。


マンガでわかるフーリエ解析

マンガでわかるフーリエ解析

2006年3月出版。今もって謎なのだが、何故「統計学」「微分積分」と来て次に来るのが「フーリエ解析」だったのだろうか? 著者の執筆速度の問題なのかは分からんが、このアクロバットな出版順には当時もかなり驚いた。
ここに来て絵柄が完全に萌え漫画のそれになったのがハッキリ分かる。内容もけいおんブームを先取りしたかのようなJKガールズバンドもので、実際きららの雰囲気を強く感じる。
ここで遂に先生役に女キャラが配役された作品が登場。先生役もJK、生徒役もJK。主人公フミカの幼馴染のイケメン男子が序盤から登場するのだが、主人公とラブがコメるかと思いきや、女3人の友情の噛ませ犬化しており、この辺も百合人気を先取りした感があって面白い。


マンガでわかる物理 力学編

マンガでわかる物理 力学編

2006年11月出版。オーム社の「マンガでわかる」シリーズは他にも「電磁気学」や「熱力学」などがあるのに何故本書が「力学」でなく「物理[力学編]」となっているかというと、あくまで高校物理の力学範囲の内容だから。ちなみに2006年に本書は出ているのだが、その後、高校物理第2弾の物理[光・音・波編]が刊行されるのは何故か2015年まで待たされる。いくつかある本シリーズの謎の1つである。
内容はテニス部の女子高生が、冴えないガリ勉男子に教えを請う構図。という訳で先生役男キャラ、生徒役女キャラ。ちなみに作画は「恋愛☆SLG」の高津ケイタだ!(知らんとか言うな)


マンガでわかる電気

マンガでわかる電気

2006年11月出版。
内容は、電気の国エレクトピアで生まれ育ったレレコが、日本に電気について学びに来るという内容。ここに来て生徒役の主人公はまさかの異世界から来た女の子。所謂「落ちもの」という飛び道具がかまされる。先生役のヒカル先生は成人男性。落ちもので何らか学ぶ系の漫画なら普通はヒロインの方が先生役ではないかと思うが、この漫画では逆。しかしこのヒカル先生、電気系の研究者らしいが一貫して白衣姿。電気系ならせめて作業着ではなかろうか。


マンガでわかる分子生物学

マンガでわかる分子生物学

2008年1月出版。
出席日数の足りない女子大生2人が何故か孤島で補講を受けるという内容。授業担当は老人教授だが、実際に直接先生役をするのは助教だか院生だかの若い男性。最後にちょっとだけSF染みたオチがある。という訳で先生役男キャラに生徒役女キャラ。


マンガ 物理に強くなる―力学は野球よりやさしい (ブルーバックス)

マンガ 物理に強くなる―力学は野球よりやさしい (ブルーバックス)

2008年8月出版。7年の時を経て、鈴木みそ先生のブルーバックス学習漫画第2弾が刊行。
内容は化学とは逆の男女配役で、野球部員の男子高校生が生徒役で、優等生タイプの女子高生が先生役で高校物理について学んでいる。2冊目ということでこなれたのか、個人的には化学式より日常会話から物理学の話への繋げ方が洗練されたように思う。その分逆に「何でもかんでも化学の話に無理矢理にでも持ってく化学バカ」のようなキャラのアクの強さは薄れて、キャラ魅力は落ちたかも?


マンガでわかるシーケンス制御

マンガでわかるシーケンス制御

2008年10月出版。本当に何故このテーマが選ばれたのかサッパリ分からないのだが、ここに来てさらにマイナーなシーケンス制御。せめて制御工学ならまだ理解できなくもないのだが、何故いきなりシーケンス制御……。この辺、「統計学」からスタートしたり、「データベース」が初期に刊行されたりしてる所を考えると、実は元々は社会人向けを強く想定していたのではないかと予想したり。
先生役はアパートに引きこもって生活する若い女性大家で、生徒役はそこの住居人の男(大学生のように見えるがどういう社会的立場の人間かは明示されず)。そこだけ聞くと、この配役でどうやってシーケンス制御の話をするのかと疑問に思わされるが、アクロバットな論理展開でそこそこスムーズに導入を描いていて結構面白い。ヒロインの巨乳+ストレートロング+ジャージというビジュアルは、絵柄の好みも相まって個人的には結構お気に入りである。


マンガでわかる宇宙

マンガでわかる宇宙

2008年11月出版。本シリーズ初(おそらく)の一般啓蒙ジャンルの本。補足部分以外特に数式なども使われておらず、普通の読書感覚で読める。
内容は演劇部の女子高生3人が、SFアレンジを入れたかぐや姫のストーリーを作るために、大学の先生に話を聞きに行くというストーリー。先生役は男性教授で生徒役はJK(にプラスで男子大学生1人)。
キャラ魅力もギャクのキレもシリーズ随一でギャグ漫画としても非常に面白い。序盤で主人公と金髪碧眼ナイスバディ留学生とがいきなり金色夜叉ごっこしながらの「貫一キーック!!」にはゲラゲラ笑った。個人的にだが、純粋に漫画としてはシリーズで最も面白いのではないだろうかと思う。アレンジかぐや姫のクオリティが結構高い。
作画の柊ゆたかは現在「新米姉妹のふたりごはん」でプチヒット中。


マンガでわかる線形代数

マンガでわかる線形代数

2008年11月出版。そろそろ一々内容を細かく説明してくのも大変になってきたので、簡潔に配役だけ述べると、先生役が男子大学生、生徒役が女子大学生。ただ、学習漫画に限らずこういった男女が「教える側」「教えられる側」になる構図の漫画で、両方共まじめで大人しいタイプが配役されるのは珍しい気がする。2人とも幸せになって欲しい感。


マンガでわかる生化学

マンガでわかる生化学

2009年1月出版。女性の大学准教授が先生役で、生徒役に女子高生と男子大学生が配役。ただ准教授の先生がいない所では男子大学生が一時的に先生役をやっているシーンもちょこちょこあるので、先生役男性キャラとしてもカウントしておいても良いかも知れない。本編中の図や化学式が一貫してフリーハンドで描かれているが、親しみがあってなかなか良い。


マンガでわかる相対性理論

マンガでわかる相対性理論

2009年6月出版。物理[力学編]に続き高津ケイタ作画第2弾。高校舞台に女性の物理教師が先生役で、男子高校生が生徒役。特殊相対論の初学的な内容までは概ね三平方の定理だけで代数的にどうにかなるので、高校舞台でもそんな問題無いのだろう。一般向けの相対論の本の常で、一般相対論の話はエッセンスだけ雑学的に学ぶに留めている。個人的にははっちゃけたプロローグが結構好き。


マンガでわかる微分方程式

マンガでわかる微分方程式

2009年11月出版。先生役が学問の神様を祀る神社に祀られている数ノ姫神という女性神で、本記事での紹介漫画では初の人外先生役。生徒役は神社にお参りに来た男子大学生と神社の巫女さん。微分方程式そのものだけでなく「応用の仕方」に重点がかなり置かれており、個人的にかなり好感が持てる。


マンガでわかる熱力学

マンガでわかる熱力学

2009年12月出版。実はこの本に関してだけは手元に無いし、読んだ記憶も無い。本記事作成中に初めて買い逃していたことに気づいた。自然科学系は一通り購入していたつもりなのだが……。
Amazonの試し読みで読める範囲だけで先生役が男性教授、生徒役が女子大生であることが分かったので一応カウント。


マンガでわかる量子力学

マンガでわかる量子力学

2009年12月出版。宇宙に続き作画柊ゆたか第2弾。キャラクターも引継ぎで前回同様生徒役は演劇部のJK3人(+男子大学生1人)、先生役は大学の女性教授と男性教授とが代わりばんこに務める。今回の演目は一寸法師とおやゆび姫のハイブリッドストーリーで、ミクロな話に結びつけたストーリーが実に面白い。漫画家の功績かシナリオ担当している石川憲二氏の力かは知らないが、やはりシリーズ中で純粋な漫画としての面白さは頭一つ分抜けているように思う。


マンガでわかる虚数・複素数

マンガでわかる虚数・複素数

2010年11月出版。先生役は女性院生で生徒役は男子大学生。学習漫画にしてはかなり珍しい「生徒役のできの悪さにイライラする先生役」が描かれるが、一見学習漫画としては禁じ手に近いキャラ描写が、恋愛漫画としてはツンデレキャラとして機能するというのは地味ながら結構コロンブスの卵なのではないだろうか。


マンガ おはなし化学史―驚きと感動のエピソード満載! (ブルーバックス)

マンガ おはなし化学史―驚きと感動のエピソード満載! (ブルーバックス)

2010年12月出版。これまた久々登場のブルーバックス「おはなし◯◯史」第2弾。今回も前回同様、タイムスリップしながら女子高生が各時代の偉人から教えを受ける形式。ただ今回は一貫した案内役がいないので、ここは先生役はノーカウント。


マンガでわかる電磁気学

マンガでわかる電磁気学

2011年8月出版。先生役は女性研究者で生徒役は男子大学生。例によって例のごとく物理学者が白衣を着ている問題。女性研究者の研究内容が何なのかが全体を通したテーマとして描かれるのだが、謎が明かされた際も「いやその実験で白衣みたいなヒラヒラしたもん着いひんやろ」となった。


マンガでわかる流体力学 (「マンガでわかる」シリーズ)

マンガでわかる流体力学 (「マンガでわかる」シリーズ)

2011年11月出版。先生役は男子高校生、生徒役は女子高生2人。大学レベルの科目を高校生にやらせると毎度微積分の説明が大変ではと思うのだが、この本でも微分の説明は手早くパパッと済ますのだが、その瞬間だけ生徒役の理解力が一気に上がってるように思うのは気のせいか。まあ大学生主人公においても結局微積分の話は1からやってるのが多いので同じ話かも知れん。


マンガでわかる電気数学

マンガでわかる電気数学

2011年11月出版。女性電気会社員が先生役で、男子大学生が生徒役。これまた例によって例のごとく先生役が白衣を着ている。どう考えても技師なら作業着やろがい。


マンガで読む 計算力を強くする (ブルーバックス)

マンガで読む 計算力を強くする (ブルーバックス)

2011年11月出版。ここで満を持して(?)ブルーバックスが今風の絵柄で描かれた漫画本を立て続けに5冊刊行する(内1冊の「分かりやすい表現」の技術 は未購入)。数学ではなくあくまで算術のコツを学ぶ内容。先生役は女幽霊、生徒役は男子高校生。


マンガで読む マックスウェルの悪魔 (ブルーバックス)

マンガで読む マックスウェルの悪魔 (ブルーバックス)

2011年11月出版。表紙真ん中の悪魔っ娘(自称マックスウェルの悪魔)が先生役で、生徒役には男子高校生と女子高生が1人ずつ。


マンガで読む タイムマシンの話 (ブルーバックス)

マンガで読む タイムマシンの話 (ブルーバックス)

2011年11月出版。うさんくさい男性科学者が先生役で、男子高校生と女子高生が生徒役。


マンガ 量子力学―この世を支配する奇妙な法則 (ブルーバックス)

マンガ 量子力学―この世を支配する奇妙な法則 (ブルーバックス)

2011年11月出版。ブルーバックス漫画本ラッシュ最終弾にして最大の奇作。上述3冊もなかなかだったが、ブルーバックスの表紙としては相当に衝撃的なイラストである。表紙中央のマスコットキャラが先生役を務め、魔法少女が生徒役を務めるというかなりアクロバットな内容。
2011年冬にブルーバックスが出したこの漫画4冊、正直に言うと漫画としてのクオリティがオーム社の「マンガでわかる」シリーズと比べて数段低いのだが、中でもこの本はとにかく絵がプロレベルとは到底思えないクオリティで、おそらく「21世紀に講談社から出版された漫画」の中で低画力争いをしたらぶっち切りで1位が取れるのではないかと思う。作者は正真正銘の研究者で、東京大学在籍中に漫研に所属していたらしく、つまりそもそも完全に素人なのだ。何故そんな実力で魔法バトルものを描こうとしたのだ……。
ただ説明やストーリー自体はそこそこ面白いので、怖いものみたさで買ってみるのは良いと思う。敢えて中身のページはアップしない。


マンガでわかる材料力学

マンガでわかる材料力学

2012年1月出版。一度読んでるはずなのだが、どこにやったか残念ながら手元には無かった。先生役に女子高生、生徒役も女子高生1人に男子高校生1人というのは覚えているのでカウント。


マンガでわかる有機化学

マンガでわかる有機化学

2014年3月出版。作画の牧野博幸氏、どこかで見た絵柄だとずっと思っていたのだが、ドラクエ4コマスパロボ4コマの人気作家だと今回の記事を書くにあたって初めて知る。なるほどそりゃ見覚えあるはずだ。前述の通り、90年代以前の学習漫画はあまり流行の絵柄で描かれず、一般漫画雑誌掲載作と遜色無い絵で描かれ始めたのがゼロ年代半ばからなので、貴重な80~90年代の絵柄で描かれた学習漫画なのではないかと思う。
男子大学生が生徒役なのだが、先生役は宇宙人のユウキマン。乗っていた宇宙船が墜落し、主人公の下宿先に無理やり居候という展開。完全にオッサンキャラだしユウキ「マン」と言うくらいなので男なのだろう。地球人年齢で36歳とのこと。本記事でも唯一の先生役と生徒役が両方男性キャラの作品である。
絵柄だけでなくストーリー展開やギャグのノリまで徹頭徹尾懐かしい雰囲気を感じられるので30歳以上の人は是非読んでみると良いのではないかと思う。ターゲット読者は大学生なのでは?という疑問は華麗にスルーだ。


2015年4月出版。ブルーバックス「おはなし◯◯史」第3弾。例によって例のごとくタイムスリップもの。案内役は中年男性(教師?)で、生徒役は女子高生2人。漫画としては薄味目なのは前2作通りなのだが、生徒役JKの俗っぽいキャラ魅力は前2作よりちょっと上か。
2015年にこの絵柄で商業漫画を出版できるというのも学習漫画ならではなのではないだろうか。


マンガでわかる物理 光・音・波 編

マンガでわかる物理 光・音・波 編

2015年11月出版。9年越しにようやく出版された高校物理第2弾。ただし作画は第1弾[力学編]担当の高津ケイタ氏とは別人。男子高校生が先生役で女子高生が生徒役。


集計およびまとめ

という訳で以上で終了。ブルーバックスの漫画書籍にしろオーム社の「マンガでわかる」シリーズにしろ、実際には私が持っていない本もいくつもあるのだが、ある程度の網羅にはなっているのではないかと思う。

さて、ではここから先生役と生徒役の性別集計に移る。まとめは以下の通りだ。


(追記:コメ欄にて集計ミスを発見したので貼り直し)

見て分かる通り、2006年ごろまでは圧倒的に「男性が先生役、女性が生徒役」という配役が支配的だったが、2008年以降では男女比はほぼ同等か、若干ながら「女性が先生役、男性が生徒役」の方が多いと言える。(まあサンプル数的に誤差範囲ではあるが)
これは学習漫画に限らず一般の漫画読みの実感とも合うのではないだろうか? 女性に何かを教わる系の漫画がここ10年程で飛躍的に増加したように感じているのは私だけではないはず。さらに言えば、学ぶ系に限らずバトル物やミステリー物でもホームズ役を女性キャラ、ワトソン役を男性キャラが担う漫画がかなり増えてきたように思う(あるいはドン・キホーテサンチョ・パンサか)。

また、「先生役も生徒役も同じ性別」というのが男女共に極めて少ないことにも少し注目したい。これに関しては、恋愛感情を生徒役の学習モチベーションにしているパターンがいくつか見られた。生徒役は勉強嫌いで当該科目に苦手意識を持っている状態からスタートするパターンが多いため、いわゆる「不純な動機」を与えてやることでスムーズに勉強の話へと展開できる訳だ。
ただ、個人的にはそれよりも学習の進度を男女関係の進展に同期させることがドラマの進行として極めて有効だからでは無いかと推測している。漫画として面白い学習漫画を描こうとすれば、学習の進行とストーリーの進行を同期させるための仕掛けが必要となり、初学範囲を一通り習得することが別の何かの達成に繋げることでストーリーが盛り上がる。そう考えると、それを男女関係の成就に結びつけるのはかなり手っ取り早い方法のように感じられる(ここで同性愛云々の話もできなくはないのだがまあそれは置いといて)。勿論男女関係に頼る必要は無いが、恋愛要素が絡まない作品の場合も学習と同期しうる何らかの仕掛けが求められるのだ(逆に言うとそうした仕掛けが弱い作品は理論や知識の説明が良くても、1漫画作品としてはどうしても魅力に欠ける)。

さて私個人の学習漫画論はこの程度にしておいて、とりあえず少ないサンプル数ながらにデータらしいデータの提示はできたのではないかと思う。このデータから何を読み取るも、どう利用するも自由なので、この記事を読んでくれた読者の方々には是非とも有効活用してくれれば幸いである。
加えて言うなら、上記の調査結果は所詮私が趣味で個人的に集めている数十冊程度であり、本来学習マンガ界全体に比べたらごくごく1部に過ぎない(冒頭に述べた通り、2005年以降「マンガでわかる」のキーワードにヒットする書籍は700冊以上出ているのだ)。ので、本記事を呼び水に「自分も手持ちの調べてみました」って人が集まってくれるのが一番良いのだと思う。

という訳で今日の所はこの辺で。(本当は連休中にアップしたかったんだけど)


追記(10/12)
・最後に一文追加(加えて言うなら〜一番良いのだと思う)

・本記事を受けてid:bookroad氏が学研まんがについての記事を執筆されたのでリンク。本記事では手落ちの小学生向け書籍について語っておられるので興味ある人は是非以下参照。

学研まんがを読んでた自分は「女の子が頭のいい役」に慣れてたって個人的な話 - 備忘録、データ集、或いは一時保管所 https://bookroad.hatenablog.com/entry/2018/10/11/065123