西野亮廣がいかに今回悪辣で狡猾な仕掛けを施したのかをちゃんと解説しておく。

これは西野批判者たちのあまりの不甲斐なさに憤慨した10年来の西野亮廣ファンによる、西野絵本炎上事件の解説である!


ここ数日ツイッターランドではどこもかしこも西野への批判でいっぱいだ。おそらく西野を悪く言うツイートを一度も見なかった人というのはほとんど皆無なのではないだろうか?

しかしにもかかわらず、個人的な感想を言わせてもらえば、西野への批判の中には的外れのものもかなり多く、問題点のみに絞って的確に批判を行えていた人はかなり少なかったように思う。
その中でも西野が批判されて然るべき点のみに上手く絞って批判できていると感じるブログ記事が以下にある。

キングコング西野の件は「炎上」では足りない - MistiRoom

しかしこのブログも、批判されうる点に上手く絞れているとは言え、西野の本質的な悪辣さと狡猾さについてはほとんど理解できていないように思う。このブログではむしろ「なぜ炎上したか?」という点しか説明しておらず、西野が「なぜ炎上させたか?」についてまでは全く踏み込めていない。

なので、せっかくなので今回の件をかなり詳細に追っかけていた西野ファンのこの私が西野の手口の悪辣さについてキッチリ解説しておこうと思う。

(ちょっと最後の方に1文足しといた。1/23朝)
幻冬舎の誤字を修正。指摘いただいた方ありがとうございます。1/23夜)

*追記(1/24朝)
https://www.facebook.com/AkihiroNishino.official/posts/611977895673243
Facebookにて西野亮廣本人からの反応をもらったので完璧なハッピーエンドだなと思いました。
これから「西野を笑わせた男」と名乗れるかと思うとファン冥利につきます。




まず断言しよう。
この騒動は西野亮廣本人のプロデュースによるれっきとした「炎上商法」に他ならない。
彼は単なる思慮浅さや傲慢な人間性により、天然であのような世間のクリエイター達への侮辱記事を書いた訳では無い(彼が傲慢な人間性の持ち主であることには一切疑う余地は無いが)。明確に自覚して炎上させ、それを自身の商売に利用している。
実は、これは西野本人も直接的な白状こそしないが、実はほとんど隠していない。彼はブログでもツイッターでも度々「どうやってバズらせるか」ということを語っている。彼は自分の「無料公開報告」にいかに世間の耳目を集めるかを考えに考え、その結果としてあの最悪な記事を打ち出したのだ。
事実、彼のブログはネットで幅広く拡散され多くの人の目にふれられる結果となった。そしてその結果、発売後3ヶ月が経ち売り上げ曲線も落ち着いてきた頃になって、西野の絵本はAmazonランキング総合1位にまで返り咲いた。

お金の奴隷解放宣言。 - キングコング 西野 公式ブログ

この時点で意図的な炎上商法としてはかなりに恐ろしいのだが、さらに恐ろしいのはむしろここからだ。
この記事につられて彼の「自著の無料公開」そのものに多くの人が多くの批判を浴びせたが、そうした批判は的外れであることは上述のブログでも繰り返し指摘されている。
普通に考えれば、昨今webで無料配信し、高品質のものを書籍の形で売る手法は極めて普遍的に行なわれている。今回の珍しい点はせいぜい「発売後3ヶ月」という早さ程度しか無い。
しかし西野の多くの批判者は、「お金の奴隷」や「糞ダセー」というバズワードに引っかかり、西野の言動でなく、行動そのものに批判をふるった。
しかしそれは西野の巧妙な「罠」であった。それが明朝に更新されたブログ記事で明らかになる。

『えんとつ町のプペル』を無料公開したらAmazonランキングが1位になった。 - キングコング 西野 公式ブログ

ここで彼は自身の「無料公開」が単なる宣伝方法の一環でしかないことを種明かしした。もはやこの時点で「お金の奴隷解放宣言」や「お金がなくて読めずに悲しむ小学生」なぞ詭弁に過ぎなかったことがハッキリ分かるが、西野は昨日の「詭弁」のことは一切伏せたまま、ただただ「無料公開」行為が何ら問題無いことだけを良い話風に巧妙な語り口で説明する。
この記事「だけ」を読んだ人はどう思うだろうか? おそらく「いやあ西野って頭の良い人だなあ。こんな売り方があったとは」だ。
さらにこの次の日、西野はさらなる悪辣さと狡猾さを我々に見せつける。

声優・明坂聡美の危うさ。 - キングコング 西野 公式ブログ

声優明坂聡美の吊るし上げだ。
(ここで一点指摘しておくと、この「吊るし上げ」自体には明坂聡美に同情する点はあまりない。数万規模のフォロワーを抱えた人気声優が名指しで他人の批判をしたのだから、当人のブログで名指しで反論されるのは全くもって不当では無い。批判をする奴は反論される覚悟のある奴だけだ。その反論の場がツイッターだろうがブログだろうがそんなものは反論者の自由でしかない。まあブログタイトルは悪辣さが凝縮されてるけど)
改変引用の問題などはありながらも、明坂聡美は基本的に西野の「無料公開」という点にかなり絞って批判していた。がしかし、その批判の仕方が間違っているのは先ほどから繰り返し述べた通りだ。

つまり、だ。西野は間違った批判の仕方をしてしまった有名人に狙いを的確に定め、かつ完璧に反論しうる意見にだけ反論し、自分の正当性をブログ読者に対して見事にアピールしているのだ。
「西野は論点ずらししてる」と批判する者も多かったがそれは間違いだ。西野自身は決して論点ずらしはしていない。ずれた論点で批判してきた批判者に合わせて話をしているだけなのだ。西野ではなく批判者がわざわざ論点をずらしてくれるので、西野本人は論点ずらしをしなくても勝手に論点がずれてくれる。なんという恐ろしいシステムか。
おそらく、最初の「お金の奴隷解放」記事の記憶を捨てて、全ての先入観を取り除いて以降の記事を読んで、西野が間違ったことを言っていると思える人はおるまい。そもそも間違ったことは何も言っていないのだから。
とんでもない悪辣さにして狡猾さである。西野は初手でさんざん他人の悪感情を煽り冷静さを失わせて、我々を目につきやすい批判点(に見える罠)に誘い込む。そして2手目3手目で、その罠にひっかかった批判者を自分の正当性アピールに見事に利用しきるのだ。
もともと喧嘩っ早さに定評のある明坂聡美はまんまと西野の餌食になった訳だが、西野からすれば明坂はまさにネギを背負った鴨に見えていたことだろう。
この記事「だけ」を読んだ人はどう思うか? 「西野って人は世の中の変化についてよく考えているんだなあ。この明坂って人は頭の固い人だなあ」だ。


いかがだろうか? 西野亮廣という男がいかに悪辣で、そしていかに狡猾であるか分かっていただけただろうか。


さて、残る西野への批判材料として、クリエイターへの報酬問題や著作権問題が挙げられる。
しかし報酬問題に関して言えばそれはあくまで当人同士の契約にすぎないので、法的問題に発展する可能性は皆無と言えよう。西野がいくら安い賃金で買いたたいたとしても「部外者の同情」の域を超えないし、そもそもどれくらいの報酬が支払われていたのか我々には知りえないので憶測でものを言うべきではない。

次にweb公開版でクリエイター33人分のエンドクレジットが削除されている問題がある。これは著作人格権の問題になるが、おそらくこちらも訴訟に発展する目はほとんどないように思う。
例えばアシスタントの名前が明記されていない漫画なんていくらでもあるし、表紙には自分の名前しかクレジットされていないのに、当の本人はほとんどペン入れしていない、という漫画家も少なくないと聞く。また、おまけページなどでアシの名前も全て明記してるような漫画であっても、コンビニの廉価版では削除されてるケースもあるが、まさかコンビニ本になるたびに、毎回アシスタント全てに許可をとっている訳ではあるまい。

つまり「プペル」のエンドクレジット削除問題はいかに我々が悪印象を持ったとしても、実態としては「出版界のよくある慣例」なのだ。おそらくそこに立ち向かえる人はほとんどおらず、悔しいが訴訟案件に発展する可能性は無いに等しいだろう。

クラウドファンディングで金を集めておいて出資者に知らせずに無料公開にした点は?
それこそ契約問題でしかない。ほぼ確実に、クラウドファンディングの出資契約の中には宣伝方法や販売方法に関して出資者が異をとなえるようにはできてはいまい。もしそうなっていないとしたら、出資者が共同で訴訟すれば西野は確実に負ける。この件のバックには幻冬舎吉本興業がいるのだ。そんな契約ミスをするほど2社の法務は甘くはないだろう。
もしよしんば仮に出資者に異をとなえる権利があったとしても、そもそも実際西野の方法で「プペル」の売り上げは向上したのだから、文句を言う出資者自体がほとんど少数派になるだろう。


さて、以上の話を統括すると、要するに西野の問題点は結局のところ紹介したブログにもある通り、「不特定多数の人間を侮辱した」という一点に集約される。というかそれ以外に無い。
そして、だ。よくよく考えてみてもくれたまえ。先の西野批判ブログ記事では「炎上では足りない」「炎上で終わらせてはいけない」と主張しているが、逆に聞く。法律違反をした訳でもない。民事訴訟に発展する可能性もゼロに等しい。ただ「不特定多数の人間を侮辱した」という行為に対して、炎上以上に一体全体何が行えると言うのだ?

炎上により確かに西野の社会的信用を貶め、それにより西野から仕事を無くさせることはできなくもないだろう。事実、人工透析患者への侮辱記事により炎上した長谷川豊は、その炎上によってテレビの仕事を全て失った。とは言え、ネットの人々が彼にできたのは所詮「炎上」そのものに過ぎない。彼から仕事を奪ったのは炎上騒動を見て「これはマズい」と判断したテレビ局だ。

しかし、好感度が全ての能力に優先されるテレビタレントという仕事から、西野はもはや何年も前から身を引いている。ネットでいくら嫌われようが、彼から奪える仕事はそもそも存在しない。
ライブや舞台に足を運ぶ西野ファン、キングコングファンなんて元々西野の人間性がクズであることを喜んで受け止めている者たちばかりだ。この件で西野から離れるファンなんていても極々少数だ。
「信用の完全に失墜した西野に、次の仕事を手伝ってくれるクリエイターはもういない」? もともと自分一人で描いた絵本3冊で10万部売った実績の上に今回の「プベル」があるのだ。次はまた今回上がった知名度でもって自分一人で描けば良いだけ。出版社はこの「人気作家」を決して手放すことはないだろう。(あの「幻冬舎」だぞ?)

すなわち、(長期的にはともかく短期的には)西野が今回の件で潰れる目はゼロに近い。いくら我々が西野を炎上させたところで、単に絵本作家としての西野の知名度アップに貢献するだけなのだ。
どんなに西野が悪辣で狡猾な男だとしても、我々は基本的に西野を炎上させることしかできない。それ以上の西野への攻撃手段を、現代社会もネット社会も持ち合わせていない。そして最悪なことに、当の西野は炎上すればするだけ得をするのだ。我々の攻撃は彼にダメージを与えることができないばかりか、彼にただただ利用されるだけなのだ。
世間の有名人が一様にネット炎上の牙の恐ろしさにビクビクしている中で、ただ一人西野亮廣だけが炎上の牙の無力さをあざ笑っているのだ。


ここまで来ればもうお判りだろう。我々は悪辣にして狡猾なビジネスマンにして、紛れもなく自分の作品に心血を注ぐクリエイターでもある西野にまんまとはめられて、完全に勝利されてしまったのだ。これがこの一件の真相なのである。
(紛れもなくクリエイターである、という点はあまり外さない方が良い。「他人に描かせた」と批判されるが西野は脚本絵コンテは自分でやっているのだし、それ以前に彼は独力で3冊の絵本を世に送り出している。絵の専門の勉強をしたことのないはずの西野があの緻密な絵で作品を完成させるまでに至った努力量は想像に余りある。西野がクリエイターであることを否定する者はまずさいとうたかをに「お前は漫画家ではない」と言うべきだ。問題は西野がクリエイターでありながら、恥も外聞も気にしないビジネスマンまでをも兼任している点で、この二面性を同時に持ち合わせている作家は日本にはほとんどいない)

*追記
ブコメさいとうたかをは通説と違って自分で書いてるらしいよという指摘を複数うけました。私も真相は分かりませんので訂正させて頂きます。さいとうたかをの代わりに本宮ひろ志でも晩年の赤塚不二夫でも適当に入れておいてください。


最後にもう一点、西野でなく世間の反応について、ひとつ気になったことを指摘しておきたい。

私が本件で一点、非常におそろしく感じるのは、「プペル」の製作に協力した33人のクリエイターたちの名前を、ツイッター上でほとんど見かけなかったことだ。かろうじてメインの統括者である六七質氏の名前があがる程度で、音頭をとったはずの法人格MUGENUPの会社名すら無理やり検索してようやく見つかる程度だった。

いくら無料公開版では削られているからといって、調べられないはずがない。通常の書籍にはちゃんと記載されているのだ。
もし本当に西野に被害を被った33人のクリエイターたちをかわいそうだと思うのなら、本来であれば皆彼らの名前をしっかり上げて、普段どんな仕事をしているか紹介し、彼らの名誉回復に努めるべきではないのか。
それは西野の仕事だ? そんなことは分かっている。問題は西野がその仕事を怠っている点を皆批判しているにもかかわらず、それを自分たちで少しでもしようとは欠片も思わない点だ。

調べた所、唯一こちらのページにおいてそうした趣旨の記事が見つかった。
「えんとつ町のプペル」に携わった方々について調べてみた - まあお聞き。

が、ご覧の通り、多少ブクマがついている程度でほとんど拡散されていない(本記事投稿時、ブクマ数はわずか28。ちなみに冒頭に挙げた西野批判記事は500を超える)。西野を批判する記事が盛大にバズる影で、西野に黙らされたクリエイターたちの救済記事は見向きもされないのだ。

つまり、だ。みな西野がクリエイターをないがしろにした件にあんなに怒っているのに、西野のせいで名誉を貶められた33人のクリエイターたちの名誉回復についてはちっとも興味が無いのだ。
世間のほとんどの人々は、西野を批判し西野を貶めることを優先し、彼によって被害を受けたクリエイターたちの救済に手を伸ばすことはない。非常に恐ろしい話だと思う。
正義の味方とは力なき正義の人々を救うから正義の味方なのであって、悪を倒すから正義の味方なのではないと川内康範も言っている(嘘)。

西野亮廣のセリフがまるで聞こえてくるようではないか。
「ほらな。マイナークリエイターいくら讃えたって誰も見てくれへんねん。俺みたいな大物がムカつくことゆうてるから叩いたろ!って思てる時がみんな一番集まってくんねん」
(↑ 追記部分:1/23朝)


この西野絵本炎上事件とは一体なんだったのか?
私にとっては、西野という個人の自覚的な悪辣さと狡猾さに感心すると同時に、世間の人々の無自覚な悪辣さにゾッとさせられる。そんな一件であった。


オマケ

俺はどうしようもなくキングコング西野のファンなんだなあ、というお話。 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1072129
西野亮廣という才能の塊にして人間のクズについて - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1072983



さらにオマケ

はい、これで完結。西野劇場の御観劇みなさま誠にありがとうございました。