日本からロボが消える日

「ロボ」とはロボットの略称である。とはわざわざ説明せずとも誰しも理解しているだろうが、この略称、かつてはアニメや特撮に登場するロボットに対して「○○ロボ」とよく用いられていたが、近年では余り使用されなくなって随分と久しいように思う。
 そこで思い立ったが吉日、日本で「ロボ」という言葉が廃れていった経緯をちょいと調べてみようじゃないかと思い立つ。特に大して示唆的な結論があった訳では無いが、折角なので記事化しておこうと思ったので以下に調査結果を示す。

 まあ調査結果と仰々しく言った所で、単にロボットアニメのタイトルの中で「○○ロボ」が含まれた物を時代別に列記していっただけなので、大した物では無いのだが。ちなみにロボットアニメのタイトル一覧にはニコニコ大百科の年表をそのまま参考にした。多少の抜けやロボットアニメと言って良いか微妙な作品も結構混じってはいるので、厳密性には欠けるものの、一応あからさまに「それはちょっと違わない?」と思ったものは抜いてカウントしたし、まあそこまで厳密に考えんでもええやろ、という事で1つご容赦。

1960年代 0作品

日本初の週一30分テレビアニメである『鉄腕アトム』が放送された1960年代だが、ここでは該当作品はゼロ。ちなみにラインナップは以下の通りである。

1963年 鉄腕アトム 鉄人28号
1966年 レインボー戦隊ロビン ロボタン

 「ロボ」の略称という意味では『ロボタン』がそうであるとも言えなくはないが、とりあえずここでは「○○ロボ」に限定。そもそもマジンガーZ前夜なので「ロボットアニメ」というジャンル自体が成立してない頃である。ちなみにサイボーグ作品としては『8マン』や『サイボーグ009』などが60年代アニメ作品としては挙げられる。
 なおここで重要なのが、特撮界では67年に『ジャイアントロボ』が放送を開始しているという点。どうも少なくとも映像作品でタイトルに「○○ロボ」とついているのはこれが一番最初のようである。

1970年代前半 1作品

74年 ゲッターロボ

 1972年に『マジンガーZ』が放送開始され、「ロボットアニメ」というジャンルが遂に産声を上げた1970年代前半だが、まだまだ作品数は6作と多くはなく、ここでは『ゲッターロボ』の1作のみ。ちなみに日テレ版ドラえもんが73年に始まる。
 一方特撮界はと言うと、これが意外に特撮史全体でも「○○ロボ」がタイトルになるのは、『ジャイアントロボ』と97年の『ビーロボ カブタック』の2作だけの様子。自分で調べててもにわかには信じられないので、他に知っておられる方がいたら是非ご一報を。(特撮はぶっちゃけ守備範囲外なのです)

(追記:コメント欄にて93年『特捜ロボ ジャンパーソン』の存在を教えてもらう。それにしてもアニメに比べて特撮は「ロボ」が妙に少ないみたいだ。)

1970年代前半 8作品

75年 ゲッターロボG UFOロボ グレンダイザー 
76年 超電磁ロボ コン・バトラーV マグネロボ ガ・キーン
77年 合身戦隊メカンダーロボ 惑星ロボ ダンガードA
    超合体魔術ロボ ギンガイザー 
79年 未来ロボ ダルタニアス

 ロボットアニメ文化が一気に花開いた70年代後半、ロボットアニメ自体が30作品以上へと一気に膨れ上がり、それに伴い「○○ロボ」は8作品を計上。いわゆるスーパーロボット全盛期である。が、70年代最終年に始まった歴史的ロボットアニメにより(と言ってしまって良いのかどうかは分からんが)この状況は一変する。

1980年代前半 3作品

80年 無敵ロボ トライダーG7
81年 最強ロボ ダイオージャ
84年 超力ロボ ガラット

 ロボットアニメの総数自体は45作以上と70年代後半からさらに膨れ上がっているものの、「○○ロボ」というタイトルがこの時期に一気に衰退したのが分かる。その一因として考えられるのが79年『機動戦士ガンダム』の大ヒットで、ご存知の通り『ガンダム』では劇中に登場するロボットは「MS」と呼称され、そもそも「ロボット」の単語が使用されない。ロボットアニメの総数が45作以上と述べたが、およそその内の1/3以上が『ガンダム』同様に、ロボットが劇中で「ロボット」と呼ばれない、いわゆる「リアルロボット」作品となる。
(そもそも人が乗って操縦するのは「乗り物」であり、(狭義の)ロボットの定義から外れる云々、という話もあるのだが、閑話休題
 もちろんそうでない作品も数多く存在するが、何となく個人的なイメージだけで言わせてもらえば、「MS」のようなロボットに変わる別の呼称を持たないアニメでも、劇中では「マシン」や「メカ」と呼んだりする事が多く、「ロボット」という呼称自体がかなり避けられるようになっている印象がある。「ロボ」の略称以前に、この時代に「ロボット」という呼称自体にどこかダサいイメージがまとわりつき始めたように感じられる。が、これはあくまで印象論なので正確性は無い。興味ある方はより詳細な独自研究を推奨。
(というかよくよく考えたらマジンガーやゲッターだって「機械獣」「メカザウルス」って呼称があった訳だしな)
 とにもかくにもこの辺りから「○○ロボ」は一気に廃れ始めて、実はこれ以降のロボットアニメ作品では過去作品のリメイクや、オタク向けのパロディ風味の作品以外では「○○ロボ」がタイトルに使われた記録が皆無となる。上記の『超力ロボ ガラット』もパロディ色の強い作品なので、そういう意味では、パロディ系を除いたオリジナル単発作品として最後の「○○ロボ」は『ダイオージャ』であると言って良いかも知れない。

1980年代後半 2作品

86年 マシンロボ クロノスの大逆襲
87年 マシンロボ ぶっちぎりバトルハッカーズ

 という訳で80年代後半はマシンロボの2作品のみ。マシンロボ自体は82年から始まる玩具シリーズが先行しているため、純粋な新作とはカウントしづらい。
 ロボットアニメ全体としては80年代前半のリアルロボットブームは多少落ち着いた感はあるが、一方『トランスフォーマー』のヒットやOVA文化の隆盛、『Zガンダム』による「ガンダムシリーズ」の開幕と、イロイロとターニングポイントは多い。総数としては60作程度。

1990年代 6作品

91年 ゲッターロボ
92年 超電動ロボ 鉄人28号FX ジャイアントロボ地球が静止する日
98年 熱血ロボ ゲキ・ガンガー3 真ゲッターロボ 世界最後の日
99年 思春期美少女合体ロボ ジーマイン

 数も少なくなってきたのでザックリ90年代一括。総数のカウントをこの辺から諦める。という訳で、ロボットアニメ全体としては前半期の勇者シリーズや『ワタル』をはじめとしたファンタジー路線、後半期は『新世紀エヴァンゲリオン』の大ヒット、とこれまたかなり波瀾万丈ではあるのだが、「○○ロボ」路線を見てみると主流から外れた傍流で当時ロボットアニメ界に何が起きていたかが見えてくる。
 『鉄人28号』『ゲッターロボ』『ジャイアントロボ』の3作品がリメイクとして復活しているのがなかなか興味深い。『鉄人28号』に関しては原作は元々「○○ロボ」系では無かったはずが、ここで新たに「超電動ロボ」を冠している。ちょっとしたレトロ感を狙った名称と考えれば良いのだろうか?
 一方、遂に登場したのが『機動戦艦ナデシコ』の劇中劇『ゲキ・ガンガー3』。翌年の『ジーマイン』と合わせて、完全に「古き良きロボットアニメ」のパロディ路線が確立した事が分かる。ちなみに92年に『クレヨンしんちゃん』の劇中にて『カンタムロボ』が登場している事も付記しておく必要があるだろう。
 もう1つおまけに言及しておくと、ジャンプ漫画の『すごいよ!! マサルさん』にて「ロボだこれー!!」「落ち着けロボは古い」みたいな掛け合いがあったはず。これが96年頃の話だ。

2000年以降 4作品

00年 真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ
03年 出撃!マシンロボレスキュー
04年 新ゲッターロボ
07年 GR-GIANT ROBO-
14年 超ゼンマイロボ パトラッシュ 健全ロボ ダイミダラー

 2000年から現在まで一気にひとまとめ。ゲッターロボの根強い人気がよく分かる。ゲッターに関してはアニメ化こそないものの、漫画もほぼ途切れず複数の作家の手によって連載されていたりする。『ジャイアントロボ』もアルファベット表記ながら地味にリメイクされている。14年の2作品は勿論パロディ系であるのだが、ここで注目は03年の『マシンロボレスキュー』。これもまた過去シリーズからの復活作品ではあるものの、真正面に子供向けで「○○ロボ」の名称を使った最後のロボットアニメと言えるだろう。


さて、以上のようにロボットアニメの歴史を概観する事で「ロボ」の衰退の様子がかなり克明に理解できた訳だが、ここでもう1つ、かなり系統的に「ロボ」の変遷を追えそうなサンプルを思いつく。戦隊ロボだ。戦隊シリーズのロボなら単一シリーズで対象年齢もほとんど固定されてる。という訳で以下が戦隊ロボの、特に1号ロボの一覧となる。

戦隊ロボの歴史

1979年 バトルフィーバーJ バトルフィーバーロボ
1980年 電子戦隊デンジマン ダイデンジン
1981年 太陽戦隊サンバルカン サンバルカンロボ
1982年 大戦隊ゴーグルファイブ ゴーグルロボ
1983年 科学戦隊ダイナマン ダイナロボ
1984年 超電子バイオマン バイオロボ
1985年 電撃戦隊チェンジマン チェンジロボ
1986年 超新星フラッシュマン フラッシュキング
1987年 光戦隊マスクマン グレートファイブ
1988年 超獣戦隊ライブマン ライブロボ
1989年 高速戦隊ターボレンジャー ターボロボ
1990年 地球戦隊ファイブマン ファイブロボ
1991年 鳥人戦隊ジェットマン ジェットイカロス
1992年 恐竜戦隊ジュウレンジャー 大獣神
1993年 五星戦隊ダイレンジャー 大連王
1994年 忍者戦隊カクレンジャー 無敵将軍
1995年 超力戦隊オーレンジャー オーレンジャーロボ
1996年 激走戦隊カーレンジャー RVロボ
1997年 電磁戦隊メガレンジャー ギャラクシーメガ
1998年 星獣戦隊ギンガマン ギンガイオー
1999年 救急戦隊ゴーゴーファイブ ビクトリーロボ
2000年 未来戦隊タイムレンジャー タイムロボ
2001年 百獣戦隊ガオレンジャー ガオキング
2002年 忍風戦隊ハリケンジャー 旋風神
2003年 爆竜戦隊アバレンジャー アバレンオー
2004年 特捜戦隊デカレンジャー デカレンジャーロボ
2005年 魔法戦隊マジレンジャー マジキング
2006年 轟轟戦隊ボウケンジャー ダイボウケン
2007年 獣拳戦隊ゲキレンジャー ゲキトージャ
2008年 炎神戦隊ゴーオンジャー エンジンオー
2009年 侍戦隊シンケンジャー シンケンオー
2010年 天装戦隊ゴセイジャー ゴセイグレート
2011年 海賊戦隊ゴーカイジャー ゴーカイオー
2012年 特命戦隊ゴーバスターズ ゴーバスターオー
2013年 獣電戦隊キョウリュウジャー キョウリュウジン
2014年 烈車戦隊トッキュウジャー トッキュウオー
2015年 手裏剣戦隊ニンニンジャー シュリケンジン

 79年から89年までは「○○ロボ」率8/11となり、ほとんどがロボと言って良い。これが90年代になると4/10まで減少する。特に91年のジェットイカロスを皮切りに、大獣神大連王、無敵将軍と漢字名の3連発。大獣神の『ジュウレンジャー』が戦隊シリーズ初の非科学系戦隊であった訳だが、イロイロと試行錯誤が見えて面白い。ロボットアニメの方が81年の『ダイオージャ』がほとんど最後の「○○ロボ」だった事を考えると、戦隊ロボの脱「○○ロボ」はロボットアニメのちょうど10年遅れという事になる。
 そして00年以降は2/16という結果になり、04年のデカレンジャーロボを最後に戦隊ロボの歴史からは完全に「○○ロボ」が潰えた事になる。この04年は『マシンロボレスキュー』の終了年であり、アニメと特撮が丁度ほぼ同年に最後の「○○ロボ」を世に送り出したという訳だ。流石に同年というのは偶然ではあるが、子供向けに「○○ロボ」が通用するギリギリの年代だったというのは肌感覚とも一致している。
 「ロボ」の呼称そのものからは一旦離れて概観してみると、「○○ロボ」の代わりに主に「○○オー」が使われるようになったという事が分かる。ここで言う「オー」は「王」も含むが、同じ意味の「キング」も地味に何度も使用されている点は興味深い。その次に「ジン」=「神」が来て、それ以外はとりたてて共通したものは無いようだ。
 まとめると以下のようになる。

        ロボ  オー  キング  ジン  その他
            (王)     (神)
1980年代    8   0   1   1   1
1990年代    4   2   0   1   3
2000年代    2   3   2   1   2
2010年代    0   3   0   2   1
  合計    14   8   3   5   7

始まりはいつ?

 さて「ロボという略称が廃れるまで」をこうして追ってはみたものの、では逆にいつこの略称が生まれて広まったのか?に関しては、これがどうもよく分からない。そう言えばシートン動物記の狼王ロボがいたなと思い出すが、こちらはLoboなのでロボット(robot)とは無関係。
 そもそもロボット(robot)という単語は小説家カレル・チャペックによる造語であり、初出は1920年の戯曲『R.U.R.』に遡る。語源はカレル・チャペックの母国語(チェコ)において強制労働を意味するrobotaとされており、「人間の代わりに働く物」という意味が込められている。
アイザック・アシモフの『われはロボット』が1950年に発表。『鉄腕アトム』の連載開始が52年である。『アトム』第1話の雰囲気からすると、その当時には「ロボット」の呼称自体は一般にかなり普及していたと考えて良いだろう。が、一方『アトム』に「ロボ」という略称が使われていたかというと、どうなのだろうか? 少なくとも余り多用はされていなかったように思う。
 少なくとも人気作品のタイトルとしては62年の『ジャイアントロボ』以上は遡る事ができない。となると、ひとまずの元祖を『ジャイアントロボ』と置くのが妥当だろうか?

日本以外では?

 日本人になじみ深く、そして今現在廃れる一方の「ロボ」という呼称だが、日本以外ではどうなのだろうか?と考えてみたが、こちらも正直よく分からない。パッと思いつく所では『ロボコップ』が存在するが、「ロボ」で1つの単語として扱う風潮というのはあるんだろうか?


という訳でこんな下らねえ記事に自分でもドン引きする勢いだよ。馬鹿か。まあ似たような疑問を持つ人が今後いたら資料として活用してくれや。以上。