その3。四話はこれで以上。
【話が噛み合ない理由】
キャラクター同士の噛み合わない会話がネットでもかなり話題として取り上げられている。Gレコにおける魅力とも欠点とも言われるいわゆる「富野会話」だが、そうしたチグハグな会話を特に頻繁に繰り返しているのが、我らが主人公ベルリ君だ。今話でも同じようにベルリは何度も噛み合ない会話を見せる。
私自身も2話におけるベルリとアイーダの擦れ違い会話について以前言及したが、それは2人は相手が何の話をしようとしているかを察する事をしないままに会話をしているからだと述べた。では今話ではどうだろうか?
ベルリ「この船、衛星軌道まで行って帰ってきたんですよね?」
艦長 「ベルリ君の名字はキャピタルタワーの運行長官と同じだな」
ベルリ「キャピタルタワーのクラウンを3度襲った海賊部隊はこの船から出撃したんですよね?」
艦長 「ウィルミット・ゼナム長官の息子さんか」
以上は食事後のベルリと艦長の会話。どう読んでも全く噛み合っていない。噛み合っていないのだが、映像を見ると2人ともまっすぐ相手の顔を見ながら、余裕たっぷりに笑みをみせつつ会話を交わしている。彼等の会話が噛み合っていないのは、お互いに相手の言おうとしている事を分かっていながら、その上で噛み合わせる気が無いからなのだ。つまりここで2人は会話の主導権争いをしているのである。
その証拠にベルリは、海賊側の情報を引き出そうとする自分の言葉に艦長さんが一切乗って来ないのが分かると、すんなりと相手に話を合わせる。
「僕には人質の価値はありません。母は仕事の事しか考えられない人間ですから」
が、相手の話題に合わせておきながらも、会話の主導権まで渡すつもりは無いらしい。ゼナム家の親子関係がそんな冷えきった関係でない事は既に我々は知っている。相手の欲しい情報をみすみす明け渡す気も無いし、そう簡単に思い通りにはいかないよ、とアピールまでして見せる。
似たような事はその後のクリムとの会話でも言える。
クリム「貴様! Gセルフを動かして見せろ!」
ベルリ「はい?」
クリム「カーヒル大尉をやったのだろう」
ベルリ「あなた達は、衛星軌道上でキャピタルタワーのクラウンを襲って…」
クリム「やって見せろ!」
ベルリ「MSの基本操作は同じなんですよ?」
ここでベルリは別の話に逸らしているかのように一見聞こえつつも、「あなた達だって負い目はあるはず」と言外に告げており、その上で相手が問答無用で詰め寄れば、またもスッと話を相手に合わせている訳だ。
これらから分かるのは、ベルリが決して相手の話を聞いていないような人間ではないという事だ。むしろ相手の言おうとしている事を充分に理解した上で、自分の有利なように話を進めようという高いコミュニケーション能力を見せている。ベルリの「噛み合ない会話」は、あくまで自覚的な会話の主導権争いの結果であるとも言える。
で、2話における「噛み合ない会話」のもう一方の担い手アイーダ姫はと言うと、ベルリと艦長さんとの間に入って来たかと思えば
「艦長は私のことで責任を感じる必要はありません」
と前後の会話の流れをぶった切り、その後もベルリに対して一方的に捲し立て、最後にはまたも脈絡無く
「この少年を海賊の法で裁きましょう!」
だ。とかくベルリ君への敵対意識を隠そうともせずに直情的な発言が目立つ。同じ「噛み合ない会話」にしても、彼女の方は正真正銘、自分の言いたい事ばかり喋っている事がその原因のようだ。
そして今話におけるもう1つの「噛み合ない会話」が、最後のノレドとベルリ。
ノレド「ベル! キャピタルタワーに帰ろうよ」
ベルリ「これもラライヤも空から来たんだ。中尉の話、聞きたくないか?」
ノレド「うん! ベルはこの船に貸し作ったんだから帰れるよ」
ここでベルリの「話、聞きたくないか?」は、「もっと色々知りたい事があるから、もう少しここにいよう」という意味で言ったはずなのだが、ノレドには「帰る為の交渉をしよう」という意味で聞こえてしまった。キャピタルに帰りたがっているノレドは、ベルリも自分と同じように考えていると信じて疑わない。だから言外に含まれた真意に気付けず、自分の都合の良いように台詞を解釈してしまう。
アイーダが「自分の言いたい事だけを言っている」のなら、ノレドは「自分の聞きたい事だけを聞いてしまう」訳だ。会話外での自然な動作で息ぴったりのコミュニケーションを見せているはずのノレドとベルリが、いざ会話ではこうしてお互い擦れ違ってしまうというのは、なかなか皮肉な話だ。
同じ「噛み合ない会話」にしても、噛み合ない理由はこれだけ様々に存在する。そこに含まれた意味性の深さ、多様さは驚く程だ。Gレコの「噛み合わない会話」を批判するにせよ肯定するにせよ、「だって富野だから」とか「いつもの富野」とか、「富野」の名前を理由に思考停止しているようでは甘いのである。
【ベルリとアイーダ】
今話の冒頭シーンにて、ようやく自身の母艦へと帰り着いたアイーダはGセルフから降りるや否や「脇目も振らず」に艦長の胸に飛び込み、カーヒル大尉を死なせてしまった事を泣きながら懺悔する。捕虜の身から逃れ親しい者達の元に帰れた安心感からか一気に感情をさらけ出す。…かのように見えるのだが、
ここでちょっと気をつけたいのは、アイーダが艦長の元へと駆け寄る直前に、ベルリの顔にまっすぐ視線を合わせている点だ。前言撤回、実は「脇目」は振っているのだ。ベルリも目を合わしてきたにも関わらず自分に何も言わず駆けて行くアイーダに対し「ん?」と疑問の声。ほんのちょっとした動作ではあるが、一目も憚らず泣き出す直前の行動としては妙に違和感が残る。
これはどうもポンコツ姫様、ベルリ君に対して自分が泣く所を見せつけて「私はこんなに悲しんでるのよ!」とアピールしているのではないだろうか。涙自体が嘘ではないだろうが、それに乗じて周囲が自分の味方ばかりのこの状況で前回の意趣返しをしてやろうという遠回りな悪意が見える。
また、艦長を交えたベルリとの論戦シーンにおいても、上述の通りアイーダは艦長に対して「この少年を海賊の法で裁きましょう!」の怒鳴り声。「海賊の法」がどんなものかは知らないが(知れない単語をこのようにサラッとキャラの口に登らせる事で、世界観に広がりが出るのだ)、とにもかくにもアイーダにとってベルリ君はまだまだ好感度最悪だ。
これらのアイーダの言動には、ベルリに対する「あんたは私に酷い事をしたんだ! その事をちゃんと自覚しろ!」という言外のメッセージが見て取れる。
この風向きが少しだけ変化したのが、キャピタルアーミィとの戦闘開始時における
「返せる借りじゃないけど、返す努力はします!」
というベルリの台詞だ。
ここで初めて我々視聴者は、ベルリが前々話の「カーヒル殺し」をひっそりと負い目に感じていた事を知る。そしてそれはアイーダも同様だ。ベルリはここまでカーヒルが死んだ事に対して謝罪するような事はしてこなかったし、むしろ「先に攻撃を仕掛けて来たのはそちら」と反論すらしてきたのだ。
だからこそアイーダは彼に対し感情の赴くまま辛い当たり方をする事ができたのだが、このシーンで彼女はベルリが内心抱えていた後ろめたさを知る事になった。ここまででベルリに対して何とか罪の意識を突きつけようとしてきたはずのアイーダは、いざそんなベルリの姿を見ても「あの子…」と戸惑うだけだ。
さてこれからの2人の関係や如何に。
という訳で以上四話! 「見たくなったでしょ?」とか当たり前の事聞かれても「ハイ!」としか答えられないので、ともかく次回も見るしかないのだ。
というか正直その2の【人はみんな嘘をつく】はグダちんさんが、【話が噛み合ない理由】はおはぎさんが、似たような内容を俺よりずっと上手く書いてるので、なんか今更俺が書いて何か意味あんのかって気分は無いでも無いが、まあとにかく書くしかないので、書く。
参考 http://d.hatena.ne.jp/nuryouguda/20141018/1413563626
http://nextsociety.blog102.fc2.com/blog-entry-2370.html