Gのレコンギスタ備忘録 第4話

以下の内容は2015年刊行の同人誌「Gのレコンギスタ備忘録」の内容の再掲です。

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【ベルリとアイーダ

 今話の冒頭シーンにて、ようやく自身の母艦メガファウナへと帰り着いたアイーダはGセルフから降りるや否や「脇目も振らず」に艦長ドニエルの胸に飛び込み、カーヒルを死なせてしまった事を泣きながら懺悔する。捕虜の身から逃れ親しい者達の元に帰れた安心感からか一気に感情をさらけ出す。…かのように見えるのだが…。
 このシーン、注意深く画面を追うと、ドニエルの元へと駆け寄る直前にアイーダがベルリの顔にまっすぐ視線を合わせていることに気付く。前言撤回、実は「脇目」は振っているのだ。ベルリもアイーダが一瞬目を向けてきたのに「ん?」と疑問の声。極々些細な動作ではあるが、一目も憚らず泣き出す直前の行動としては妙に違和感が残る。
 どうやらアイーダは、ベルリに対して自分が泣き出す所を敢えて見せつけているらしい。何故か? それはおそらく「私はこんなに悲しんでるのよ!」というベルリへのアピールだ。涙自体が嘘ではないだろうが、それに乗じて周囲が自分の味方ばかりのこの状況で前回の意趣返しをしてやろうという遠回りな悪意が見える。
 また、ベルリとドニエルと食事中に論戦をしている最中にも、アイーダは横から割って入った挙げ句、ドニエルに対して「この少年を海賊の法で裁きましょう!」と怒鳴り声を上げる。「海賊の法」がどんなものかは知らないが(知れない単語をこのようにサラッとキャラの口に登らせる事で、世界観に広がりが出るのだ)、とにもかくにもアイーダ姫様にとってベルリ少年はまだまだ好感度最悪のご様子だ。
 これらのアイーダの言動には、ベルリに対する「あんたは私に酷いことをしたんだ! そのことを自覚しろ!」という言外のメッセージが見て取れる。
 この風向きが少しだけ変化したのが、キャピタルアーミィとの戦闘開始時における
「返せる借りじゃないけど、返す努力はします!」
というベルリの台詞だ。
 ここで初めて我々視聴者は、ベルリが前々話の「カーヒル殺し」にひっそりと負い目を感じていたことを知る。そしてそれはアイーダにしても同様だ。ベルリはここまでカーヒルが死んだことに対して謝罪するようなことはしてこなかったし、むしろ「先に攻撃を仕掛けて来たのはそちら」と反論すらしていたのだ。
 だからこそアイーダはベルリに対し感情の赴くまま辛い当たり方をすることができた。しかしこのシーンでアイーダは、ベルリが内心抱えていた後ろめたさを知ってしまった。ここまででベルリに対して何とか罪の意識を突きつけようとしてきたはずのアイーダは、いざそんなベルリの姿を見ても「あの子…」と戸惑うだけだ。
 前話ではこじれるだけだった主人公とヒロインの関係性が、少しずつ動き始めてゆく。

 

【人は皆嘘をつく】

 今話の戦闘が始まる直前、海賊側には「人質を解放しなければ、MS部隊の攻撃をかける」という、キャピタル・アーミィからの警告が入る。この「警告」を受けてアイーダは人質解放でことが済むなら3人を解放しようと提言するが、ドニエルはこの場所が知られた以上そんなことしても無駄だと返す。元々キャピタル・アーミィの人質救出は、軍こと行動を起こす為の口実に過ぎないのだ。そこで正直に相手の要求を信じるアイーダと、その裏の意図まで瞬時に察知するドニエルとの差が見て取れる。
 こういったキナ臭い大人の駆け引きに限らず、人は人に嘘をつく。それも極めて日常的にだ。
 冒頭の帰還シーンでのアイーダの涙について前節で言及したが、ここでもアイーダ、ベルリ、クリムの3人が、三者三様の「嘘」をついている。
 アイーダは自分を救出に来たクリムに対して、素直に労いとお礼の言葉を向ける。前回は「私を利用しようとしている」とクリムに対して警戒心を丸出しにしていたにも関わらず、だ。それに続き、ベルリに意地悪しておいて「スマン!」と笑顔で謝るクリム。ベルリもクリムの笑顔が嘘だと分かっていながら、表面上は笑顔を返す。
 こうなると、泣き出すアイーダを悲痛の面持ちで慰めるドニエルも、アイーダら到着時の「やれやれ…」の台詞から考えると、ひょっとしたら内心では「小娘が仕方ねえな」くらいには思っているのかも知れないと予想もしたくなる。
 こうした「腹芸」は富野アニメの特徴の1つと言われるが、普通の人間だってどんな嫌いな相手にも愛想だけは良くするのは極々普通のことだ。嘘をつく時にこれ見よがしに焦る姿を見せるような人はいない。人は皆嘘をつく。「エキセントリック」だとか「濃い」だとか言われがちな富野アニメだが、その内のかなりの割合は、実際には単に「普通の」「当然の」人間描写をしているに過ぎなかったりするのだ。

 

 

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