ガンダム Gのレコンギスタ 第四話感想その1

第四話「カットシー乱舞」

 海賊の母艦にアイーダと一緒について来たら、ノレドとラライヤ人質に取られたし、カーヒル殺しの負い目もあるので海賊に協力してデレンセン率いるカットシー部隊と戦う羽目になりましたよ、というのが今話のお話。

 冒頭からガッツリ距離の近さを見せるノレドとベルリの両名だが、会話の内容は海賊船についての雑感という色気の無さ。年頃の男女がここまで密着してるのに、会話に色気の欠片も無いのは、それだけ自然に仲が良いともとれるし、逆にベルリがノレドを異性として全く意識してない表れともとれる。
 絵の方では主人公とヒロインの精神的な距離の近さを描き、台詞の方では状況説明という、台詞と絵とで別々の情報を載っけている訳だが、その絵と台詞とが合わさる事でさらに二人の関係性にもう一味加わるという、実に見事な情報圧縮シーン。
 ようやく自身の母艦へと帰り着いたアイーダ御一行。ここでのキャラ同士の会話がまたいろいろ面白いのだが、詳しくは別項で。

 場面はキャピタル側へと移り、キャピタルアーミィ記念式典へと。ここで前回のクンパ大佐の思惑が「人質救出にかこつけて軍事行動に正当性を与える」事だったことが判明。演説も含めて兎に角白々しさが満載のシーン。

 そしてそこに「『科学技術を進歩させてはならない』というアブテックのタブー」とやらが遂に劇中で明言。劇中世界での「タブー破り」が衝撃的なワンシーンとしてでなく、各国が既成事実を重ねながらジリジリと破られつつある、というのに薄ら寒いリアリティがある。

 視点は海賊船メガファウナへと戻り、食事と同時に論戦シーン。ノレドの「良い油」発言は何気ない一言だが、この台詞がある事で絵空の「食べ物」にグッと現実感を与えてくれる良い台詞だ。美味しそうに食べるノレドに、ベルリが何も言わずスッと自分の分も分けてあげる所も、一瞬のシーンながら相変わらず2人の距離の近さを感じる。

 食事が終われば、ベルリ、艦長、アイーダによる論戦が始まる。ここで、またもタブーの設定が再度繰り返される。世界観や設定の理解が難しいと評判(?)のGレコだが、「ミノフスキー粒子」や「ユニバーサル規格」など、ハッキリと理解して欲しい設定に関しては繰り返し明言するのだ。逆に言えば明言せずに描写された設定に関しては何となくのニュアンスさえ受け止めておこればそれで良い、とも言える。
 また、ここいらでそろそろ海賊組織がアメリアという国の軍組織の一端である事も視聴者にある程度印象づけられて来たのではないかと思う。で、そのアメリアが、キャピタルタワーのせいでゴンドワンという別の国と戦争をするハメになっているらしい。少しずつ世界の概形が見えてくる。

 僅かの時間経過シーンを挟んで、ここから怒濤の天才クリム・ニック君大活躍(?)シーンが始まる。まずは「Gセルフを動かして見せろ!」とベルリ君に今流行りの壁ドン。

 強気に相手に詰め寄っているが、このシーンの彼の台詞は「天才と呼ばれた私に操縦が出来なかったのだ!」と、むしろネガティブアピール。すかさず後方のノレドに茶化される。そんなクリムに何故か珍しく真顔で「食べな」と自分の食べかけのパンを差し出すラライヤ。「なんか怒ってるっぽいしご飯をあげよう」くらいの思考なのだろうか?

 会話の中心地はベルリとクリムだが、そんな場でも逐一女子2人が台詞を挟む。人が4人もいれば4人共が喋りだすのは当たり前の話だが、この画面一杯の情報密度が心地良い。
 当のクリム君はラライヤの差し出すパンを彼女の手から直接銜えるという少しドキっとした所作をしたかと思えば、「この2人を人質にとっておく!」と悪役な台詞。その際の画面の動きを見ていると、どうもパンを銜える時に掴んだラライヤの腕を、そのまま極めようとしたように見えるが、ラライヤ自身はサラッとその動作を躱しており、ちょっとダサいクリム君。今のラライヤは幼児後退しているが、やはり元々は訓練された兵士だったのだろうか。

 そして極めつけはラライヤの「目が奇麗」という褒め言葉に対する「いつも言われている事だ」という無愛想な返し。前回に引き続き着々と面白キャラを確立していっている。

 ノレドとラライヤを人質にとられたベルリは渋々Gセルフに搭乗する。ここでアイーダ姫様の回想シーン。カーヒル大尉の事を思い出し涙を一筋。
 この回想シーンで少し気になるのは、アイーダを気遣うカーヒルの姿に対するクリムのリアクション。ちょっと不快さを見せるこのシーンは、クリムもアイーダに多少は気があった事を意味するのか、それとも単にこんな場に来てイチャついて見せる2人が単に気に障っただけか。とは言え、あくまでアイーダの回想なので、どこまでこのシーンをそのまま信じて良いかは怪しい所だ。


 Bパート明けでいきなりトイレしつつ周囲へ指示を出すデレンセン教官殿。長距離移動なのだから、コクピットの中でだって食べるし飲むし、出す。飛び道具的に思われがちな「パイロットシートが便座」という設定だが、そこにはMSのコクピットもまた人の生活空間である事を描く意図があるのだ。

 視点は再び海賊船側へ。ここで背景が夕焼け空へと変わっている事により自然と時間経過が説明される。
 デレンセン部隊が近づいた事に気付く海賊側は戦闘体勢へと移るが、その最中にベルリは海賊側への協力を申し出る。その理由は、自分も知らぬままに設立されていたキャピタルアーミィという軍事組織への反発心と、船にいるノレドとラライヤを守る為、そして

「返せる借りじゃないけど、返す努力はします!」

と。このシーンに関しても後ほど詳しく。

 戦闘中にベルリはカットシー3機の前でGセルフの両手を広げて交渉を試みるが、ミノフスキー粒子の中でその試みは失敗に終わる。この一連のシーンにおける戦場コミュニケーションの面白さと残酷さについてはグダちんさんの記事が面白かったので参照(http://d.hatena.ne.jp/nuryouguda/20141018/1413563626 後半部分)。コミュニケーションをとりたいのに、とれない。富野アニメの醍醐味でもある。

 前話に続けてデレンセンのカットシークリム・ニックモンテーロの再戦。前回同様MSの操縦技能はデレンセン側が優勢な様子。大丈夫か頑張れ天才。
 「チェストオオオ!」で気合一閃ビームサーベルを振り下ろす! が、腕に防がれる! が、辛うじて指先を切り落とす事に成功!相手が武器を落とした! が、即座に下方のGセルフがジャベリンを拾って活用! と見事な「流れ」の戦闘美を見せてくれる。素晴らしい。






 前話までかなり「やられ役」が多く(今話も?)、メカニック的にもそこまで目立つ所の無かったカットシーだが、今話では「固定兵装を脚部スネ部分に集中して搭載」という変わった設計思想を持つ事が発覚。各メカにそれぞれ固有の個性を持たせる事に丁寧なのが非常に好感触。

 そして本話の見せ場、三方から囲まれたカットシーを「謎パワー」で一挙撃退するGセルフGセルフの機体から放たれる光はこれまでも何度か出て来たが、今話では初めて物理的な力を持つ事が確認された。


 また、細く途切れたエフェクトで描かれるビームサーベルも実に特徴的だ(富野監督のビームサーベル論についてはこちらを参照 http://blog.freeex.jp/archives/51332984.html)。


 Gセルフの不可思議な能力に退けられたデレンセンは部隊の退却を判断。戦闘はここで終了する。帰還の途中デレンセンは今話の戦闘で死なせてしまった部下達を思い、懺悔の涙を流す。そう、今話の戦闘で人は死んでいるのだ。しかも7人も。
 一方でベルリは素直に生き延びれた事に安堵する。2話ではアイーダが目の前で泣いてくれたから、自分が人の命を奪った事を嫌でも自覚させられたが、デレンセンの涙はベルリには届かない。見えない所で泣かれても、それを知る事はできない。なかなか残酷なシーンですらある。

 メガファウナに戻ったベルリ達。ここでベルリはアイーダアメリア軍総監の娘である事を知るが、「アイーダ・スルガンですか!」とちょっと嬉しそうなのは、「お偉いさんの子供」という点に親近感を持ったからか?
 その後ベルリとノレドがお馴染みの「噛み合ない会話」を交わし、最後に自室のアイーダがお着替えサービスショットを入れて今話は終わり。キャピタルに帰りたがるノレドと、もうしばらく海賊船で過ごしてみたいベルリの心の齟齬が次話以降でどうなる事やら。


いつも通り、深く語っておきたい所はその2に続く。